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不当解雇で訴えられた企業が取るべき初動対応と法的リスク回避のポイント
Q1. 従業員から「不当解雇だ」と訴えられました。まず何をすべきですか?
従業員から不当解雇の主張を受けた場合、まず冷静に事実関係を整理することが最優先です。感情的な反応や安易な発言は、後の紛争で不利な証拠となる可能性があります。
初動対応として、以下のステップを踏みましょう:
- 解雇に至った経緯と理由を時系列で整理する
- 解雇通知書や就業規則など関連書類を確認・保全する
- 解雇の判断に関わった会議録や面談記録を収集する
- 労働基準監督署への相談や弁護士への相談を検討する
- 従業員との直接のやり取りは慎重に行い、記録を残す
特に重要なのは、証拠の保全です。メールや書面、音声記録など、解雇の正当性を裏付ける資料をすぐに集めてください。時間が経つと証拠が散逸したり、記憶が曖昧になったりします。
Q2. 不当解雇とはどのような場合を指しますか?
不当解雇とは、法律上または社会通念上、正当な理由がないにもかかわらず行われた解雇のことを指します。労働契約法第16条では「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定められています。
不当解雇と判断されやすいケースには、以下のようなものがあります:
- 能力不足を理由とする解雇だが、具体的な指導や改善機会を与えていない
- 業績不良を理由とする解雇だが、会社都合の要素が強い
- 整理解雇の4要件(人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性、手続きの妥当性)を満たしていない
- 就業規則に定められた解雇事由に該当しない、または該当性が薄い
- 労働組合活動や内部告発などを理由とした報復的解雇
- 妊娠・出産・育児休業などを理由とする解雇
解雇は「最後の手段」として慎重に判断されるべきものであり、裁判所も厳格に審査します。
Q3. 訴訟になった場合、企業が負けるとどうなりますか?
不当解雇が認められた場合、企業は以下のような法的責任を負うことになります。
解雇の無効と地位確認:
解雇が無効と判断されると、従業員は依然として雇用関係にあることになります。つまり、解雇後も労働契約は継続していたとみなされます。
バックペイ(未払賃金)の支払い:
解雇期間中の賃金を全額支払う必要があります。これは「働いていなくても、解雇が無効である以上、賃金請求権は発生する」という法理に基づきます。解雇から判決確定まで数年かかることもあり、その間の賃金総額は相当な金額になります。
慰謝料:
不当解雇によって従業員が精神的苦痛を受けた場合、慰謝料の支払いを命じられることがあります。金額は数十万円から数百万円が一般的ですが、悪質なケースではより高額になることもあります。
弁護士費用:
訴訟に負けた場合、自社の弁護士費用に加えて、相手方の弁護士費用の一部を負担することもあります。
さらに、企業の評判損失や従業員のモチベーション低下といった間接的なダメージも無視できません。
Q4. 解雇の正当性を証明するには何が必要ですか?
解雇の正当性を立証する責任は、企業側にあります。「解雇が正当だった」ことを客観的な証拠をもって示す必要があります。
証拠として有効なものは:
- 就業規則:解雇事由が明確に定められているか
- 雇用契約書:労働条件や職務内容の記載
- 勤務記録:遅刻・欠勤・勤怠不良の記録
- 業務評価資料:目標管理シートや評価面談の記録
- 指導記録:口頭注意や書面での警告書、改善指導の履歴
- 懲戒処分歴:過去の処分とその理由
- トラブル報告書:顧客クレームや社内トラブルの記録
- 面談記録:解雇予告面談や退職勧奨面談の議事録
重要なのは、「問題があった」というだけでなく、「改善の機会を与えたが改善されなかった」というプロセスを示すことです。いきなり解雇するのではなく、段階的な対応を取っていたことが、解雇の相当性を裏付けます。
Q5. 従業員が労働審判を申し立てた場合、どう対応すべきですか?
労働審判は、裁判よりも迅速に労働紛争を解決するための手続きで、原則として3回以内の期日で終結します。申立書が届いてから第1回期日までは約40日しかないため、迅速な対応が求められます。
答弁書の作成:
期限までに答弁書を提出する必要があります。答弁書では、解雇の正当性を具体的かつ詳細に主張し、証拠を添付します。この書面の出来が審判の結果を大きく左右します。
証拠の整理:
主張を裏付ける証拠を網羅的に収集し、整理してください。第1回期日で証拠を出し切ることが重要です。
和解の可能性を検討:
労働審判では、多くの場合、調停による和解が試みられます。訴訟に発展するリスクや時間・費用を考慮し、合理的な和解案を検討しておくことも重要です。
代理人の選任:
労働審判は専門性が高いため、労働問題に精通した弁護士に依頼することを強く推奨します。
労働審判の結果に不服がある場合は、異議申立てをすることで訴訟に移行しますが、その場合は紛争がさらに長期化します。
Q6. 解雇後に復職させたくない場合、和解金の相場はどのくらいですか?
不当解雇の和解金は、ケースバイケースですが、一般的な相場は以下の通りです。
金銭和解の基準:
多くの場合、「賃金の〇ヶ月分」という形で算定されます。相場としては:
- 軽微なケース:賃金の3〜6ヶ月分
- 標準的なケース:賃金の6〜12ヶ月分
- 重大なケース:賃金の12〜24ヶ月分以上
和解金の額は、以下の要素によって変動します:
- 解雇理由の妥当性(弱いほど和解金は高くなる)
- 勤続年数(長いほど高くなる傾向)
- 従業員の年齢と再就職の困難性
- 賃金額
- 企業側の手続きの適切性
- 訴訟リスク(企業が負ける可能性が高いほど和解金は高くなる)
重要なのは、和解金には「解決金」という性質があり、復職を求めない代わりに金銭で解決するという趣旨です。単なる解決金だけでなく、未払賃金や退職金の清算も含めて総合的に検討する必要があります。
Q7. 解雇理由が弱いことに気づきました。今からできる対応はありますか?
解雇後に「理由が弱かった」と気づいた場合でも、適切な対応により紛争を最小限に抑えることは可能です。
早期和解を検討する:
訴訟や労働審判になる前に、任意の話し合いで和解することを検討してください。紛争が長引くほど、費用も感情的な対立も大きくなります。
不利な発言を避ける:
「解雇は間違いだった」といった発言は、不当解雇を認める証拠となります。和解交渉においても、慎重な言葉選びが必要です。
専門家に早期相談:
弁護士や社会保険労務士に相談し、リスク評価と最適な解決策を検討してください。専門家のアドバイスにより、傷を最小限に抑える戦略を立てられます。
今後の改善策を検討:
同じ失敗を繰り返さないために、就業規則の見直し、解雇手続きの整備、管理職への教育などを実施してください。
解雇を撤回して復職を提案することも選択肢の一つですが、その場合は労働条件や職場環境の調整が必要になることもあります。
Q8. 不当解雇の訴訟を避けるために、日頃から注意すべきことは?
不当解雇トラブルを予防するためには、日常的な労務管理が重要です。
就業規則の整備:
解雇事由を明確に定め、従業員に周知してください。就業規則は労働基準監督署に届け出て、常に最新の状態に保つことが必要です。
指導・教育の記録化:
従業員に問題がある場合は、口頭での注意だけでなく、書面で警告し、改善指導を行った記録を残してください。「指導したが改善されなかった」という事実が、解雇の正当性を支えます。
評価制度の運用:
定期的な人事評価を実施し、客観的な基準で評価を行ってください。評価結果は本人にフィードバックし、改善目標を設定します。
段階的な対応:
問題が発生した場合、いきなり解雇するのではなく、注意→警告→懲戒処分→解雇という段階的な対応を取ってください。
解雇予告と解雇理由証明書:
解雇する場合は、30日前の予告(または解雇予告手当の支払い)を行い、従業員から請求があれば解雇理由証明書を交付してください。
専門家との連携:
顧問弁護士や社会保険労務士と日頃から連携し、重要な人事判断については事前に相談する体制を作っておくことが理想的です。
Q9. 不当解雇で訴えられた場合、企業イメージへの影響も心配です。どう対処すべきですか?
不当解雇の訴訟は、企業の評判にも影響を及ぼす可能性があります。特にSNSやインターネット上で情報が拡散されると、採用活動や取引先との関係に悪影響が出ることもあります。
情報管理の徹底:
紛争に関する情報は、社内でも必要最小限の関係者のみで共有し、外部への情報漏洩を防いでください。従業員に対しても守秘義務を徹底します。
迅速な解決:
紛争が長引くほど、企業イメージへのダメージは大きくなります。合理的な範囲での早期和解は、長期的に見て企業にとってプラスになることもあります。
誠実な対応:
感情的な対立を避け、冷静かつ誠実に対応することで、たとえ訴訟になっても「企業として適切な対応をした」という印象を与えることができます。
社内への説明:
他の従業員が不安に思わないよう、適切な範囲で状況を説明し、会社の方針を伝えることも大切です。ただし、プライバシーに配慮し、個人を特定できる情報は開示しないでください。
再発防止策の実施:
今回の件を教訓に、労務管理体制を改善し、コンプライアンス意識を高めることで、企業の信頼回復につながります。
訴訟は避けたい事態ですが、万が一訴えられた場合でも、適切な対応により被害を最小限に抑え、むしろ組織改善のきっかけとすることができます。
まとめ
不当解雇で訴えられた場合、企業は初動対応が極めて重要です。証拠の保全、専門家への早期相談、冷静な事実確認を行い、感情的な対応を避けることが紛争の拡大を防ぎます。解雇の正当性を立証する責任は企業側にあるため、日頃から適切な労務管理と記録の保管を心がけることが、不当解雇トラブルの予防につながります。
万が一訴訟や労働審判に発展した場合でも、証拠に基づいた丁寧な対応と、必要に応じた和解の検討により、企業へのダメージを最小限に抑えることが可能です。労働問題に精通した専門家と連携し、法的リスクを適切に管理することが、健全な企業経営の基盤となります。
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