「何年も前の借金について、聞いたことのない会社から突然ハガキが届いた」「今さら請求が来て怖い。でも、とても払える金額ではない」
そんな不安を抱えてこのページにたどり着いた方、多くいらっしゃるのではないでしょうか。
じつは、長期間放置された借金には「消滅時効」という制度があり、「時効の援用」という手続きを正しく行えば、支払い義務がなくなる可能性があります。
ただし、その前に知っておかないと取り返しがつかなくなる「やってはいけない行動」があるのも事実です。
ここでは、時効の援用の意味と借金が消える条件、時効期間5年・10年の判定方法、内容証明郵便でのやり方と費用、よくある5つの失敗例、そして援用後の「連絡が来ない」「電話が来た」という不安への答えまで、順を追ってお伝えします。
読み終えていただければ、慌てて危険な行動を取ることなく、ご自身にとって安全な一歩を踏み出せるはずです。
当法人は社会保険労務士法人として年間1,000件以上の障害年金のご相談をお受けするなかで、生計に悩む方のお話を数多く伺ってきました。だからこそ、手続きの解説だけで終わらせず、「なぜ返せなかったのか」という事情にまで寄り添った記事をお届けしたいと考えています。
時効の援用とは?借金は放置しただけでは消えない【結論】
最初に結論からお伝えします。借金には5年または10年の消滅時効がありますが、期間が過ぎても、借金が自動的に消えることはありません。
「時効の利益を受けます」という意思表示を債権者に対して行って、初めて支払い義務がなくなります。この意思表示が「時効の援用」と言います。
時効の援用の意味は?「時効を使います」と伝えて初めて借金が消える
民法145条は、「時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない」と定めています。つまり、時効の期間が満了しただけでは効果は発生せず、借りた本人が「時効を援用します」と債権者に伝えることが必要なのです。
時効の援用が有効に成立すると、次のような効果があります。
・借金の支払い義務が法律上消滅する
・債権者からの督促・請求が止まる
・信用情報機関に登録された延滞などの事故情報が、整理・削除される扱いにつながる(詳細は後述します)
実務では、「時効援用通知書」という書面を作成し、内容証明郵便で債権者に送付する方法が一般的です。具体的な手順はこの後の章で詳しく解説します。
請求が続いているから時効ではない、とは限らない
「時効のはずなのに督促状が届き続けている。ということは、時効は成立していないのでは?」これは非常によくある誤解です。
債権者が時効完成後に請求を続けること自体は、禁止されていません。むしろ、援用されない限り債権は残っているため、債権者は請求を続けるのが自然なのです。
裏を返せば、「請求が来ている=時効ではない」という判断は誤りですし、「請求が来なくなった=時効が成立した」という判断も誤りです。
大切なのは、感覚ではなく、時効期間の起算点と「時効が延びる事情」の有無を一つずつ確認することです。その確認方法も本記事で順番にご説明します。
時効の援用の前に!やってはいけない3つのNG行動
督促状やハガキを目にすると、「とにかく連絡して謝らなければ」「少しだけでも払って誠意を見せなければ」と考えてしまう方が少なくありません。
しかし、その行動こそが、成立寸前の時効を消してしまう最大の落とし穴です。債権者に連絡する前に、次の3つだけは必ず確認してください。

NG行動①: 債権者に電話をかけて話してしまう
最も危険なのが、慌てて債権者や債権回収会社に電話をかけることです。
なぜなら、通話のなかでの何気ない一言が「債務の承認」と評価されると、民法152条により時効はその時点からゼロからやり直し(時効の更新)になってしまうからです。
債務の承認にあたり得る一言の例を挙げます。
・「もう少し待ってもらえますか」(支払い猶予のお願い)
・「分割払いにはできますか」(支払い方法の相談)
・「払うつもりはあるんです」(支払い意思の表明)
いずれも、借金の存在を前提とした発言であるため、承認と判断される可能性があります。
債権回収の現場では通話内容が記録されているのが通常で、「言った・言わない」の争いにもなりません。
時効の可能性がある借金について、債権者への電話の前に、弁護士や司法書士に相談が推奨されます。
NG行動②: 「誠意」のつもりで少額だけ返済してしまう
「まずは1,000円でもお支払いいただければ」といった案内が督促状に書かれていることがあります。しかし、たとえ1円でも返済すれば、それは債務の承認そのものです。時効は更新され、それまで経過した期間は無かったことになります。
少額の入金を促す案内には、承認を得て時効を更新するという債権管理上の目的が含まれていると考えられます。「少しだけ払って様子を見る」は、時効の観点では最も避けるべき行動です。
NG行動③: 裁判所からの通知だけは無視してはいけない
一方で、「怖いから全部無視する」にも大きな例外があります。それは、裁判所から届く「支払督促」や「訴状」です。
これらを放置すると、反論の機会がないまま債権者の主張どおりの判決(欠席判決)や仮執行宣言が確定し、給与や預金の差押えに進むおそれがあります。
さらに、確定判決を取られると、民法169条によりその借金の時効期間は10年に延長されます。
裁判所からの通知が届いた場合は、同封の答弁書や督促異議申立書で対応すれば、裁判手続きのなかで時効を主張できる場合があります。
期限が短いため、届いたらすぐに弁護士・司法書士に相談してください。なお、「受け取らなければ大丈夫」ということはなく、受領を避け続けても手続きが進む仕組み(公示送達など)があります。
借金の時効は何年?5年・10年の判定基準と延びるケース
ご自身の借金が時効になっている可能性があるかどうかは、「時効期間」「起算点」「時効が延びる事情の有無」の3点で判定します。ここが時効の援用の生命線ですので、一つずつ丁寧に確認しましょう。

2020年4月の民法改正で時効期間はこう変わった
借金の消滅時効は、2020年4月1日に施行された改正民法の前後で扱いが異なります。
| 借り入れの時期 | 時効期間の考え方 |
| 2020年4月1日以降 | 債権者が権利を行使できると知った時から5年、または権利を行使できる時から10年(民法166条)。貸金業者は返済期日を当然把握しているため、実務上は5年と考えます |
| 2020年3月31日以前 | 改正前の旧法が適用。消費者金融・クレジットカード会社・銀行などからの借金は5年、個人間の貸し借りなどは10年が原則 |
まとめると、貸金業者からの借金は改正の前後を問わず実務上おおむね5年、個人間の借金は10年が一つの目安です。ただし、次に述べる起算点と「延びる事情」を確認しないと、正確な判定はできません。
起算点はいつ?「最後に返済した日」の確認方法
時効期間は、原則として最後の返済期日(約定返済日)の翌日から数え始めます。長く放置していた方ほど「最後に払ったのがいつだったか」の記憶があいまいになりがちですが、次の方法で確認できます。
・信用情報の開示請求: CICやJICCといった信用情報機関に開示請求をすると、契約日・最終返済日・延滞発生時期などの登録内容を確認できます。
手数料は1機関あたり数百円〜1,000円程度です(※2026年時点)。なお、信用情報機関への開示請求は債権者への意思表示ではないため、これによって時効が更新されることはありません。
・督促状・ハガキの記載: 「最終入金日」「期限の利益喪失日」「代位弁済日」などの日付が手がかりになります。書面は捨てずに保管してください。
時効が延びる・リセットされるケース(更新と完成猶予)
次の事情があると、時効の完成は妨げられます。改正民法では「更新」(それまでの期間がリセットされ、新たに進行)と「完成猶予」(一定期間、時効が完成しない)として整理されています。
・債務の承認(民法152条): 一部返済、支払い猶予の懇願、返済の約束など。その時点から時効が新たに進行します
・裁判上の請求など(民法147条): 訴訟や支払督促の申立てがされると、手続きの間は時効が完成しません。そして確定判決などで権利が確定すると、そこから新たに10年の時効期間が進行します(民法169条)
・催告: 内容証明郵便などによる請求(催告)から6か月間は、時効の完成が猶予されます
特に注意したいのが判決の存在です。
ご自身が知らないうちに(あるいは忘れているだけで)過去に判決や支払督促を取られていた場合、時効期間は10年に延びています。
「5年経ったから大丈夫」と思って援用通知を送ると、実は時効が完成しておらず、通知が空振りになるどころか、その後の対応を誤ると債務の承認につながるおそれもあります。
裁判関係の記憶があいまいな方は、自力で進める前に弁護士・司法書士へ確認することを強くおすすめします。
「20年前の借金」に今さら請求が来るのはなぜ?
「20年も前のサラ金の借金なのに、聞いたことのない会社からハガキが来た」というご相談は珍しくありません。
これは、もともとの貸金業者が債権を債権回収会社(サービサー)などに譲渡し、譲り受けた会社が請求しているケースが典型です。
先ほどお伝えしたとおり、時効は援用されない限り効果が生じないため、債権者側には古い債権でも請求を続ける理由があるのです。
なお、身に覚えのない請求の場合は、実在する債権なのか、架空請求ではないかの見極めも必要です。
債権回収会社は法務大臣の許可を受けた会社に限られますので、社名を確認し、少しでも不審に感じたら消費生活センターや法テラスに相談してください。
ここでも、確認のために自分から電話をかけて支払いの話をする前に、弁護士や司法書士に相談がおすすめです。
また、2010年6月17日以前の借り入れには、利息制限法の上限を超える金利で契約されていた時期のものがあり、いわゆる過払い金が発生している可能性もあります。
古い借金の扱いを考える際は、利息制限法の解説記事もあわせてご覧ください。
牧村 和磨
時効の援用のやり方4ステップ|内容証明郵便での通知が確実
時効が完成している可能性が高いと確認できたら、いよいよ援用の手続きです。全体の流れは次の4ステップです。

STEP1: 取引内容と時効期間を確認する
前章の方法で、最終返済日・債権者名(債権譲渡があれば現在の債権者)・契約番号などを確認し、時効期間が経過しているかを判定します。
判決や支払督促の有無が不明な場合は、この段階で専門家に確認を依頼するのが安全です。
STEP2: 時効援用通知書を作成する
時効援用通知書に決まった書式はありませんが、一般に次の内容を記載します。
・自分の氏名・住所・生年月日(債権を特定してもらうため)
・対象の債権を特定する情報(債権者名、契約番号や会員番号、借入日・借入額など分かる範囲)
・「上記債権について消滅時効が完成しているので、本書面をもって時効を援用する」という意思表示
・信用情報機関に登録された事故情報の削除を求める一文
・作成日付と署名
不確かな情報を書き並べる必要はなく、債権が特定でき、援用の意思が明確に伝わることが重要です。
STEP3: 内容証明郵便+配達証明で送付する
通知書は、内容証明郵便に配達証明を付けて送付します。
内容証明郵便は「いつ・誰が・どんな内容の書面を・誰に送ったか」を日本郵便が証明してくれる制度で、配達証明を付ければ相手に届いた日付も証明されます。
援用は意思表示が相手に到達して初めて効力を持つため、この証拠化が不可欠です。
「電話で伝えればよいのでは?」と思われるかもしれませんが、口頭では証拠が残らないうえ、会話のなかで債務の承認と取られる発言をしてしまうリスクがあります。
普通郵便も「送った・届いた」の証明ができません。確実性の面で、内容証明郵便が推奨される方法です。
STEP4: 信用情報の抹消を確認する
送付後、しばらく経ってから信用情報機関に再度開示請求を行い、対象債権の事故情報がどのように扱われたかを確認します。
あわせて、債権者から「時効援用を確認した」旨の書面が届くこともあります(届かないことも多く、それが直ちに問題というわけではありません。後述します)。
なお、ここまでの手続きはご自身でも行えますが、通知書の作成代理や債権者との交渉は、弁護士または司法書士の業務領域です。
当法人(社会保険労務士)では時効の援用の手続き代理は行っておりませんので、手続きに不安がある方は弁護士・司法書士にご相談ください。
時効の援用にかかる費用|自分でやる場合と専門家に依頼する場合
費用は「自分でやるか、専門家に依頼するか」で大きく変わります。それぞれの目安と、依頼を検討すべきケースを整理します。

時効の援用を自分でやる場合の費用は、実費数千円程度
自分で行う場合にかかるのは実費のみです(※2026年8月時点の目安)。
・内容証明郵便の料金: おおむね1,500〜2,500円程度(基本料金+内容証明加算+書留+配達証明。枚数などにより変動するため、最新の料金は日本郵便のサイトでご確認ください)
・信用情報の開示手数料: 1機関あたり数百円〜1,000円程度
費用面のハードルは低い一方、時効期間の判定や通知書の記載を誤った場合のリスクは自分で負うことになります。
時効の援用を専門家に依頼する場合の相場は、3〜10万円程度
弁護士・司法書士に依頼した場合の費用は、債権者1社あたり3〜10万円程度が相場とされています(事務所や債権の内容により変動します。※2026年時点)。
次のようなケースでは、費用をかけてでも依頼する価値が十分にあります。
・過去に裁判や支払督促を起こされたかどうか記憶があいまい(時効期間が10年に延びている可能性)
・債権者が複数あり、それぞれの時効判定が複雑
・過去に一部返済や支払いの約束をした記憶がうっすらある(承認による更新の可能性)
・債権者との接触が怖く、書面の不備なく確実に終わらせたい
費用の準備が難しい方は、法テラスの民事法律扶助(収入などの要件を満たす場合に、無料法律相談や費用の立替えが受けられる制度)を利用できる場合があります。詳しくは後述の公的支援の章でご説明します。
「時効援用専門」をうたう怪しい業者・事務所の見分け方
時効の援用を検討する方の不安につけ込む、実体の不明な業者には注意が必要です。
実際、依頼した事務所の対応に「本当に手続きしてくれているのか」「詐欺ではないか」と不安を抱く方は少なくありません。依頼前に、次の点を確認してください。
・資格者の氏名と所属: 弁護士は各弁護士会、司法書士は司法書士会の検索サービスで実在を確認できます。資格者名や事務所所在地を明かさない相手は論外です
・業務範囲: 債権者との交渉や裁判対応まで代理できるのは弁護士(および認定司法書士。ただし1社あたり140万円以下の債権に限るなどの制限があります)です。行政書士は書面の作成までで、代理交渉はできません
・費用の説明: 着手前に費用総額と内訳を書面で明示するかどうか
・誇大な宣伝をしていないか: 結果を保証するような宣伝文句には注意が必要です。時効の成否は個別の事実関係で決まるものであり、事前に断定はできません
時効の援用のデメリットと失敗例|失敗したらどうなる?
時効の援用は、成立すれば支払い義務がなくなる強力な制度ですが、判断を誤ると逆効果になる場合があります。よくある失敗例と、失敗した場合の対処法を正直にお伝えします。
よくある5つの失敗例
失敗例①: 起算点の誤認
「借りたのは6年前」でも、最後の返済がその後だったため、実はまだ5年経過していなかったケース。時効は借りた日ではなく最後の返済期日の翌日から数えます。
失敗例②: 判決・支払督促の見落とし
過去に裁判を起こされ、時効期間が10年に延びていたことを知らずに援用してしまうケース。引っ越しを繰り返した方は、旧住所宛てに訴状が送達されていて気づいていないことがあります。
失敗例③: 手続き中の債務承認
援用の準備中に債権者から電話がかかってきて、うっかり「待ってほしい」と話してしまうケース。時効完成前であれば、その時点で時効は更新されます。
失敗例④: 少額返済をしてしまっていた
督促に不安になり、数年前に一度だけ数千円を入金していたケース。本人が忘れていても入金記録は残っており、そこから時効期間が再スタートしています。
失敗例⑤: 証拠の残らない方法で援用した
電話や普通郵便で援用を伝えたため、後から「聞いていない」と争われても到達を証明できないケース。援用は内容証明郵便+配達証明が原則です。
失敗しても終わりではない、債務整理という選択肢
時効がまだ完成していなかった場合や、承認により更新されてしまった場合でも、そこで人生が終わるわけでは決してありません。
返済の負担を法的に軽くする債務整理(任意整理・個人再生・自己破産)という正面からの解決手段があります。
債務整理は、利息のカットや残債の大幅な減額、免責によって、収入に見合った返済計画へ立て直す制度です。時効を待って督促に怯え続けるより、生活の再建は早く進みます。
方法ごとの違いや事務所の選び方は、債務整理おすすめランキングの記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
牧村 和磨
信用情報はどうなる?「すぐ借りられるようになる」わけではない
時効の援用が成立すると、信用情報機関に登録された延滞などの事故情報は、削除または完了扱いへの変更など、各機関のルールに沿って整理されます。
長年「事故情報が残ったまま」だった状態が解消に向かう点は、援用の大きなメリットです。
ただし、注意点が2つあります。第一に、事故情報の扱いは信用情報機関によって異なり、反映までに時間がかかる場合があります。
第二に、援用の相手方となった債権者やそのグループ会社には取引履歴が社内情報として残るため、その系列での新規契約は今後も難しいと考えられます。
「援用すればすぐに新たな借り入れができる」と期待するのではなく、そもそも借金に頼らない生活へ立て直す機会と捉えていただくのが、実務家としての率直なおすすめです。
時効の援用の後に「連絡が来ない」「電話が来た」のはなぜ?
援用通知を送った後の期間は、多くの方が想像以上に不安になります。
「債権者から何の返事もない。成立したのか失敗したのか分からない」「逆に電話がかかってきた。失敗したのでは」
そうした宙吊りの気持ちでいる方のために、援用後に起こることの意味を整理します。

債権者に「返事の義務」ない。
まず知っておいていただきたいのは、援用通知に対して債権者が回答する法律上の義務はないということです。
時効の完成に争いがなければ、債権者はそれ以上何もしてこない(=静かに回収を断念する)ことが多く、「連絡が来ない」はむしろ自然な経過です。
逆に、債権者が時効の完成を争う場合(判決による10年延長や承認の事実があると考えている場合)は、その根拠を示して通知や請求をしてくるのが通常です。
数週間〜2か月程度、何の連絡もなく督促も止まっているなら、慌てて動く必要はありません。
援用後の電話・着信は「失敗のサイン」ではない
「援用に成功すると連絡が来ないはず。電話が来たということは失敗したのでは」と心配される方が多いのですが、着信=失敗ではありません。
事務的な確認の連絡や、書類の行き違いによる督促が届くこともあります。
ここでも重要なのは、うかつに電話に出て支払いの話をしないことです。
万一時効が完成していなかった場合、会話の内容次第で債務の承認となるおそれがあります。
専門家に依頼している場合は「代理人に連絡してください」と伝えるだけにとどめ、自力で進めている場合は「書面でお願いします」と伝えて書面でやり取りするのが安全です。
時効成立を確実に確認する方法
成立したかどうかをはっきりさせたい場合は、次の方法があります。
・信用情報の開示請求: 一定期間を置いて開示し、対象債権の事故情報の扱いが変わったかを確認する(最も客観的な方法です)
・債権者からの書面: 「時効援用に伴い債権を放棄した」等の通知が届く場合があります。届いた書面は保管してください
・専門家への確認依頼: 弁護士・司法書士に依頼していれば、代理人として債権者側へ確認してもらえます
なお、督促や取り立てに関するルール(取り立てが許される時間帯や禁止行為)については、貸金業法の解説記事も参考になさってください。
時効の援用を考える前に|借金を返せなかった事情に使える公的支援
ここまで手続きの話をしてきましたが、この章では少しだけ、「なぜ何年も返せなかったのか」というご事情の側に目を向けさせてください。
長期間の滞納に至った方のお話を伺うと、うつ病などの病気で働けなくなった、けがで失職した、収入が途絶えたのに頼れる人がいなかった。
そうした事情が背景にあることが本当に多いのです。責められるべきことではありませんし、その事情に対しては、借金の整理とは別に、使える公的支援があります。

牧村 和磨
病気やけがで働けなかった方は「障害年金」を確認してほしい
障害年金は、病気やけがで働くことや日常生活に支障がある場合に受け取れる公的年金で、現役世代の方も対象です。
うつ病・双極性障害・発達障害などの精神疾患も対象になり得ますし、障害者手帳がなくても請求できます。
要件を満たせば2か月に1回、継続的に支給されるため、生活の土台の立て直しに直結します。また、障害認定日が過去にある場合には、最大5年分をさかのぼって請求できる制度(遡及請求)もあります。
制度の詳細は日本年金機構の公式サイトでご確認いただけます。
当法人は障害年金のご相談を年間1,000件以上お受けしており、「自分が対象になるのか分からない」という段階のご相談も歓迎しています。
障害年金の対象になるか判断が難しい場合は、当法人や最寄りの社会保険労務士へご相談ください。
法テラス(民事法律扶助)弁護士・司法書士費用の立替えも
時効の援用や債務整理を専門家に依頼したくても費用が用意できない、という方のための公的な仕組みが、法テラス(日本司法支援センター)の民事法律扶助です。
収入・資産が一定基準以下であれば、無料の法律相談や、弁護士・司法書士費用の立替え(分割での償還)を受けられます。生活保護を受給中の方は、償還が免除される場合もあります。
「お金がないから専門家に相談できない」とあきらめる前に、まず法テラスに電話してみてください。
生活福祉資金貸付・自立支援医療生活再建を支える制度
このほかにも、生活の立て直しを支える公的制度があります。
・生活福祉資金貸付制度: 市区町村の社会福祉協議会が窓口となる、低所得世帯などを対象とした公的な貸付制度です
・自立支援医療制度: 精神科への通院医療費の自己負担が原則1割に軽減される制度です。通院をためらっている方はぜひ確認してください
・生活困窮者自立支援制度: 自治体の相談窓口で、家計改善や就労の支援を受けられます
手元のお金がない状況での対処法や公的制度の全体像は、お金がないときの対処法と公的制度の記事に、失業中の方向けの選択肢は無職でお金がない場合の対処法の記事にまとめていますので、あわせてご覧ください。
【社労士事例】働けない事情を抱えた方が障害年金で生活を立て直した例
当法人で障害年金のご相談を担当するなかで、お金に困った方が公的支援につながったケースを3つご紹介します(いずれも当法人の受給事例です)。
事例①: うつ病で障害厚生年金2級、転職を繰り返した末の失職から(40代男性)
会社員として働くなかで精神的に疲弊し、うつ病を発症。転職を繰り返しても仕事が続かず、失職して「障害年金を受給できないか」とご相談に来られた方です。ヒアリングを進めると初診日が当初の記憶より古い10年前と判明しましたが、幸いカルテが残っており証明でき、障害厚生年金2級に決定。次回更新まで総額約496万円を受給されました。仕事が続かず収入が不安定な状態が長く続いていた点は、借金を抱えて時効の援用を検討される方の状況と重なる部分が多いケースです。
詳細は当法人ブログ「うつ病で障害厚生年金2級を取得し、次回更新まで約496万円を受給されたケース」もご覧ください
事例②: 双極性障害で障害厚生年金2級、自力で書類を集めていた方(40代男性)
「申請のために自分で書類を集めているので、見てもらえますか」とお問い合わせをいただいた方です。双極性障害により失職されており、要件の確認から申立書の作成まで丁寧に組み立て直した結果、障害厚生年金2級に決定。次回更新まで総額約404万円を受給されました。時効の援用を自力で調べていらっしゃる方と同じように「まず自分で何とかしよう」と動かれていた方が、専門家のサポートで確実な結果につながった例です。
詳細は当法人ブログ「双極性障害で障害厚生年金2級を取得し、次回更新まで約404万円を受給されたケース」もご覧ください
事例③: うつ病で障害基礎年金2級、10年以上前にさかのぼって約508万円(30代男性)
パニック症状で外出が難しく、最初のご相談はメールだった方です。障害認定日は10年以上前でしたが、当時の病院にカルテが残っていたため認定日時点の診断書を取得でき、障害基礎年金2級に決定。5年分の遡及約430万円を含む総額約508万円を受給されました。「何年も前のことだから、もうどうにもならない」と思われていた過去に対して、制度が応えてくれた例です。長年放置してきた借金に時効という制度があるように、過去の病気にも遡及請求という道が残されています。
詳細は当法人ブログ「うつ病で障害基礎年金2級を取得し、総額約508万円を受給できたケース」もご覧ください
時効の援用に関するよくある質問
Q. 電話で「時効の援用をします」と伝えるだけで大丈夫ですか?
A. おすすめできません。援用の意思表示は口頭でも可能と解されていますが、電話では「伝えた」という証拠が残らず、後から争った場合に証明できません。さらに、会話のなかの一言が債務の承認と取られるリスクもありますよ。内容証明郵便に配達証明を付けて、書面で行うのが確実です。
Q. 援用通知を送ったのに債権者から返事がありません。成立したということでしょうか?
A. 債権者には返答する義務がないため、時効に争いがなければ何も言ってこないことが多いですね。沈黙は「争わない」というサインであることが多いと言われています。確実に確認したい場合は、一定期間を置いて信用情報の開示請求を行い、事故情報の扱いが変わったかを確認するのが客観的な方法ですよ。
Q. 時効のはずなのに督促の電話やハガキが来るのは当たり前なのですか?
A. 珍しいことではありません。時効は援用して初めて効果が生じるため、援用前の債権は法律上残っており、債権者が請求を続けること自体は禁止されていないのです。援用後も、書類の行き違いなどで督促が届く場合があります。請求が続いていても慌てて電話せず、書面での対応が推奨されるケースです。
Q. 時効の援用に失敗したら、もう終わりですか?
A. 終わりではありませんよ。時効が完成していなかった場合でも、分割での和解交渉や、任意整理・個人再生・自己破産といった債務整理で、収入に見合う形へ立て直す道があります。督促に怯えながら次の時効を待ち続けるより、生活の再建はずっと早く進みます。弁護士・司法書士に相談してみてください。
Q. 家族の借金を、代わりに時効援用できますか?
A. ご本人がご存命の場合、援用はご本人の意思表示として行うのが原則です。ご家族が善意で債権者に電話して支払いの話をすると、かえって状況を悪くするおそれがあるため避けてください。亡くなった方の借金は、相続人が時効を援用できる場合があります。代理での手続きや交渉は弁護士・司法書士にご相談くださいね。
Q. 時効まで逃げ切ることはできますか?
A. 狙って逃げ切るのは現実には高リスクで、おすすめできません。債権者が裁判を起こせば時効期間は10年に延び、その間も遅延損害金は法律上の上限である年20.0%まで膨らみ続け、差押えのリスクも残ります(※2026年時点)。返せる見込みがあるなら、借金一本化や債務整理で正面から整理するほうが、結果として早く楽になりますよ。
Q. 税金や奨学金、携帯電話の料金にも時効の援用は使えますか?
A. 性質がそれぞれ異なるため、同じようには考えられません。税金や社会保険料は援用をしなくても時効で消滅する一方、その前に差押えが行われるのが通常です。奨学金は借金と同様に援用の対象になり得ますが、運営団体は判決などで時効を管理していることが多く、成立のハードルは高めです。個別の確認をおすすめしますよ。
まとめ 時効の援用は「何もしない」では成立しない
最後に、この記事の要点を整理します。
・借金の時効期間は、貸金業者からの借り入れで実務上おおむね5年(個人間は10年)。ただし期間が過ぎても自動では消えず、「時効の援用」という意思表示が必要
・援用の前に、債権者への電話・少額の返済・支払いの約束は絶対にしない。債務の承認となり、時効がリセットされる
・裁判所からの支払督促・訴状だけは無視せず、すぐに専門家へ。放置すると判決で時効期間が10年に延び、差押えのリスクもある
・援用は内容証明郵便+配達証明で。自分で行えば実費数千円、専門家依頼は1社あたり3〜10万円程度が目安(※2026年時点)
・失敗しても終わりではない。債務整理という正面からの解決手段があり、費用面は法テラスの民事法律扶助が支えてくれる
・援用後に連絡が来ないのは自然な経過。着信も失敗のサインではない。確認は信用情報の開示で
・長年返せなかった背景に病気やけががある方は、障害年金をはじめとする公的支援をあわせて確認してほしい
時効の援用は、要件さえ満たしていれば人生をやり直すための正当な制度です。同時に、判定を誤ると逆効果になり得る繊細な手続きでもあります。少しでも不安があれば、弁護士・司法書士、そして費用面は法テラスを頼ってください。
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牧村からのひとこと
牧村 和磨
この記事の執筆者
![]() 牧村 和磨 (まきむら かずま) |
HR BrEdge社会保険労務士法人 社員 HR BrEdge社会保険労務士法人にて社会保険労務士として勤務。障害年金相談 年間1,000件以上の実績を持つ法人で、お金や生活に関するご相談に幅広く対応している。 「お金に困った方が、借金や債務整理を選ぶ前に、使える公的制度や正しい選択肢を知り、計画的にお金を管理できるよう導く」を信念に、社労士視点でカードローン・消費者金融・債務整理に関する記事を執筆。 【法人情報】HR BrEdge社会保険労務士法人(旧:渡辺事務所) |
免責事項
当法人は社会保険労務士法人であり、個別の債務整理手続きの受任・代理や法律相談はお受けしておりません。本記事は、病気やケガで収入が途絶えた方に障害年金という公的制度を知っていただくことを目的として、その前提となる債務整理の一般的な仕組みを整理したものです。
債務整理は、ご本人の収入・資産・借入状況・家族構成などによって最適な手続きが大きく異なります。実際の手続きの選択や具体的な法律判断については、必ず弁護士または司法書士にご相談ください。費用面が不安な場合は、法テラス(日本司法支援センター)の民事法律扶助もご検討ください。
本記事は掲載時点(2026年8月)の法令・各信用情報機関の公表情報等に基づき、正確な情報の提供に努めておりますが、その正確性・完全性・最新性を保証するものではありません。法令改正や運用の変更、金融機関ごとの取扱いの違いにより、実際の結果が本記事の記載と異なる場合があります。本記事の情報を用いて行われた判断・行為により生じた損害について、当法人は責任を負いかねます。
また、本記事に記載した障害年金の受給事例は当法人の実際の受給事例ですが、受給の可否・等級・金額は個別の事情により異なり、同様の結果をお約束するものではありません。本記事内の外部リンク先の内容についても当法人は責任を負いません。




