こんにちは。HR BrEdge社会保険労務士法人代表、特定社会保険労務士の渡辺俊一(わたなべとしかず)です。
「自社の通勤手当はいくらまで非課税?」「テレワークが定着してきたが、定期代支給のままでいいのか?」「パート社員に交通費を支給しないのは違法では?」——大阪・東京・福岡・名古屋を中心に、HR BrEdgeの顧問先500社の人事担当者からは、交通費支給に関するご相談を毎月のように受けています。
背景には、2020年のパートタイム・有期雇用労働法改正(同一労働同一賃金)、テレワークの本格定着、新幹線通勤の増加といった働き方の変化があります。従来の「正社員には定期代全額・パートには支給なし」という運用が違法リスクを抱えるようになり、規程の見直しが急務となっています。
こんなお悩みを感じていませんか?
- 「通勤手当規程が古いままで、テレワーク・同一労働同一賃金に対応できていない」
- 「マイカー通勤の非課税限度額がどこも値がバラバラで正確な数字が分からない」
- 「通勤手当は所得税非課税でも、社会保険料には含まれるって本当?」
- 「『うちの会社、交通費出ないけどこれって違法?』と社員から質問された」
この記事では、通勤手当と旅費交通費の違い、3つの支給パターン、国税庁公式の非課税限度額(マイカー距離別最新値)、社会保険料への影響、同一労働同一賃金リスク、テレワーク時代の支給方法、規程整備の7項目と不正受給対策まで、中小企業の経営者・人事担当者が「明日から実務に着手できる」レベルで詳しく解説します。

交通費支給の基礎知識|「通勤手当」と「旅費交通費」の違い
多くの方が「通勤手当」と「交通費」を同じものだと思っていますが、経理・税務・労務の世界では明確に別物です。この区別を理解しないまま規程を作ると、社会保険料の計算ミスや経費処理の誤りにつながります。

通勤手当:自宅⇔会社の通勤費用(任意・福利厚生)
通勤手当とは、従業員が自宅から会社まで通勤するための費用を会社が補助する手当です。法律上の支給義務はなく、会社が福利厚生の一環として任意に整備するものです。労務上は「賃金」の一部として扱われます。
旅費交通費:業務上の移動費用(会社の支払義務あり)
旅費交通費とは、業務遂行のために発生した移動費です。出張・顧客訪問・会議参加などで発生する電車代、バス代、タクシー代、宿泊費、日当などがこれに含まれます。労働基準法上、業務上の必要経費は会社が負担する義務があり、従業員が立て替えた場合は実費精算するのが原則です。
経理上の勘定科目と税務上の違い
経理処理では、通勤手当は「給与手当」または「通勤費」という勘定科目で処理し、社会保険料の算定基礎にも含まれます。一方、旅費交通費は「旅費交通費」という独立した勘定科目で処理し、社会保険料の算定基礎には含まれません。同じ「会社が払う交通費」でも、税務・社保上の扱いが全く違う点を押さえてください。
交通費支給は法的義務?支給ルールの根拠
「うちの会社は交通費が出ない」「同業他社は全額支給らしい」——こうした話を耳にしますが、法律上の支給義務はどこまであるのでしょうか。
通勤手当の支給は労基法上の義務ではない
労働基準法をはじめとする労働関連法令には、通勤手当を支給する義務は明文化されていません。「交通費を出さない会社」が直ちに違法になることはなく、福利厚生として整備するかどうかは会社の自由です。
就業規則・賃金規程で定めれば「労働条件」として支払義務発生
ただし、就業規則・賃金規程・雇用契約書に「通勤手当を支給する」と一度定めた場合、それは労働条件として確定し、支払義務が発生します。求人広告に「交通費支給」と明記して採用した場合も同様で、後から「支給しない」と一方的に変更することは不利益変更にあたります。
業務交通費(出張・顧客訪問)は会社が必ず支給
一方、業務遂行のために発生する旅費交通費は、労働基準法上の業務命令に伴う費用として、会社が支払う義務があります。「自分の財布から出して」では済まされません。出張規程・経費精算規程で明確にルール化しておくのが必須です。
通勤手当の3つの支給パターン(全額・一部・一律)
通勤手当の支給方法は大きく3パターンに分かれます。それぞれにメリット・デメリットがあり、会社の規模・業種・財政状況に応じて選択することになります。

全額支給|従業員満足度◎・会社負担大
従業員が通勤に要した費用を、非課税限度額(または規程上限)まで全額支給するパターンです。従業員の満足度・採用力は最大ですが、その分会社の固定コストは大きくなります。大企業や正社員中心の組織で多く採用されています。
一部支給(上限設定)|中小企業に多いバランス型
「月20,000円まで」「日500円まで」などの上限を設けて支給するパターンです。会社負担を一定範囲に抑えつつ、従業員への配慮も維持できるため、中小企業で最も多く採用されています。HR BrEdgeの顧問先500社でも、おおむね半数以上がこのパターンです。
一律支給|計算工数最小・距離格差は不公平リスク
全員に同額(月5,000円など)を支給するパターンです。計算工数が最小で経理事務がシンプルになりますが、近距離通勤者と遠距離通勤者で実質負担が大きく異なるため、不公平感が生じやすいのが欠点です。
通勤手当の非課税限度額|国税庁公式の正確な数値
通勤手当には所得税法上の非課税限度額が定められています。これを超えて支給する場合、超過分は給与扱いで課税されます。マイカー通勤の距離別の限度額は、ネット上に古い値や誤った値が混在しているため要注意です。国税庁公式の最新値で整理します。
公共交通機関|月15万円まで非課税・新幹線OK(グリーン料金除く)
電車・バスなどの公共交通機関で通勤する場合の非課税限度額は、月15万円です。最も経済的かつ合理的な経路の定期代が基準となります。なお、新幹線通勤も「経済的かつ合理的」と認められれば非課税の対象ですが、グリーン料金は含まれません。
マイカー・自転車通勤|距離別の非課税限度額
マイカー・自転車・バイクで通勤する場合、片道距離に応じた限度額が設定されています(国税庁タックスアンサーNo.2585/令和8年4月1日現在の法令等)。
| 片道通勤距離 | 非課税限度額(月額) |
| 2km未満 | 全額課税 |
| 2km以上10km未満 | 4,200円 |
| 10km以上15km未満 | 7,300円 |
| 15km以上25km未満 | 13,500円 |
| 25km以上35km未満 | 19,700円 |
| 35km以上45km未満 | 25,900円 |
| 45km以上55km未満 | 32,300円 |
| 55km以上65km未満 | 38,700円 |
| 65km以上75km未満 | 45,700円 |
| 75km以上85km未満 | 52,700円 |
| 85km以上95km未満 | 59,600円 |
| 95km以上 | 66,400円 |
※ 2km未満は距離が短いため全額課税という点が、見落とされがちな注意点です。徒歩・自転車で通える距離だから「通勤手当を払う必要はない」という発想ではなく、「払ってもいいが全額所得税が課税される」と理解してください。
公共交通機関+マイカー併用|合算で月15万円上限
電車+マイカー併用通勤の場合、両方の非課税限度額を合計した額が支給対象になりますが、合算上限は月15万円です。郊外の駅まで車、そこから電車という通勤パターンの方は確認しましょう。
渡辺 俊一
社会保険料への影響|標準報酬月額への組込み
通勤手当に関する最重要トピックの一つが、「所得税は非課税でも、社会保険料の算定基礎には含まれる」という二重ルールです。これを知らないと、後から社保料の徴収不足で会社が立て替えるトラブルになります。
通勤手当は「報酬」に該当→標準報酬月額に含まれる
健康保険法・厚生年金保険法では、社会保険料を計算する基礎となる「標準報酬月額」に通勤手当を含めて算定することとされています。月15万円までの通勤手当は所得税は非課税ですが、社会保険料は「報酬」として乗ってくるため、保険料は増えます。
所得税は非課税でも社会保険料は別計算
「定期代がそのまま手取りに反映される」と勘違いしている方が多いのですが、実際は給与+通勤手当の合計額で社会保険料が決まるため、通勤手当が高い社員ほど社会保険料も高くなります。月の通勤手当が3万円増えると、健康保険料・厚生年金保険料の本人負担分も2,000〜3,000円程度上がる計算です。
4〜6月の支給額が9月以降の保険料に影響(定時決定)
標準報酬月額の「定時決定」は毎年4〜6月の3か月平均で計算され、9月以降の社会保険料の基礎になります。この時期に転居・経路変更で通勤手当が大幅に変動すると、1年間の社会保険料に影響します。引越し・転居の届出時期はこの観点でも要注意です。
同一労働同一賃金とパート・有期雇用への支給
2020年4月(中小企業は2021年4月)に施行されたパートタイム・有期雇用労働法は、通勤手当の運用にも大きな影響を与えました。「正社員に通勤手当、パートには無支給」という従来運用は、もはや違法リスクが高い状態です。
パートタイム・有期雇用労働法の趣旨
同一労働同一賃金の原則のもと、正社員と非正規社員(パート・有期)の間の不合理な待遇差は禁止されました。賃金・賞与だけでなく、通勤手当のような福利厚生も対象です。
正社員と同基準で支給するのが原則・違法判例あり
通勤手当については、「同じ通勤コストなら同じ支給」が原則です。「正社員は全額・パートは無支給」のような扱いは合理的理由がない限り違法と判断されます。2020年以降、複数の最高裁・地裁判決でこの考え方が定着しています。
合理的な格差設定の境界線
例外として「短時間勤務で通勤距離が極端に短い場合の上限差」など、合理的に説明できる格差は許容されます。ただし、判断は慎重に。社労士と相談のうえ、判例・行政解釈を踏まえた運用にしましょう。
テレワーク時代の通勤手当|定期代→日額支給への切替判断
テレワーク・ハイブリッドワークが定着するなかで、「6か月定期代を一括支給していたが、実際の出社は週2日。割高では?」という相談が急増しています。
テレワーク導入で定期代は割高になりがち
週5出社が前提だった時代の定期代支給を、出社週2〜3日に変わった現在も続けると、会社のコスト効率が悪化します。社員1人あたり月1〜2万円の浪費が積み上がる中小企業も少なくありません。
実費日額支給への切替フローと注意点
多くの企業が「出社日数×往復実費」の日額支給に切り替えています。切替時は、(1)就業規則・賃金規程の改定、(2)社員への周知、(3)勤怠管理システムでの出社日カウント、(4)既存の定期券の精算ルール明示、の4ステップで進めるのが安全です。
在宅勤務手当(光熱費・通信費)との組み合わせ
通勤手当を減らした分、在宅勤務手当(光熱費・通信費補助)を整備する企業が増えています。月3,000〜10,000円程度が相場です。在宅勤務手当は通勤手当と異なり、原則として全額が課税対象になるため、源泉所得税・社会保険料計算上の取り扱いに注意してください。
通勤手当規程の整備|ひな型構造と不正受給対策
通勤手当に関するトラブルの大半は、規程整備の不十分さに起因します。HR BrEdgeが顧問先で支援している、規程整備の標準フローを5ステップで整理します。

規程に盛り込むべき7項目
通勤手当規程(賃金規程内の章でも独立規程でも可)には、最低限次の7項目を明記します。
- 支給対象者:正社員・パート・契約社員等の範囲(同一労働同一賃金に整合)
- 通勤経路:最も経済的かつ合理的な経路の規定
- 計算方法:定期代実費/日額/距離別等の選択
- 上限額:月額・年額の上限(任意)
- 支給時期:給与日に同時支給か別払いか
- 変更通知義務:転居・経路変更時の届出義務
- 不正受給対応:返還請求・懲戒処分の根拠
不正受給の典型パターン
顧問先で実際に発覚した不正受給の代表的パターンは次のとおりです。
- 引越し後も旧住所の経路で申請
- 遠回りルートで高額申請
- 定期代を受け取りつつ自転車・徒歩通勤
- 通勤手当を出している区間で出張時に二重申請
経費精算システム・社労士チェックで防ぐ
不正対策は、(1)定期券コピー・領収書の年1回提出義務化、(2)勤怠データと突合する経費精算システム、(3)社労士による規程・運用の定期レビュー、の3点が基本です。
渡辺 俊一
交通費支給に関するよくある質問(FAQ)
Q1. 交通費支給は法律で義務ですか?
渡辺 俊一
Q2. バイト・パートに交通費を出さないのは違法ですか?
渡辺 俊一
Q3. 「うちは交通費支給なし」と言われた、転職前に確認すべき?
渡辺 俊一
Q4. 交通費はいつ支給されますか?給与日と一緒?
渡辺 俊一
Q5. 定期代支給と実費(日額)支給はどっちが得?
渡辺 俊一
Q6. 片道2km未満は本当に全額課税ですか?
渡辺 俊一
Q7. 新幹線通勤は会社が認めなくてもいいですか?
渡辺 俊一
Q8. マイカー通勤の駐車場代は会社負担すべき?
渡辺 俊一
Q9. テレワーク中に定期代を解約したらどうなる?
渡辺 俊一
Q10. 通勤手当の社会保険料への影響は具体的にいくら?
渡辺 俊一
Q11. 引越し時に申告し忘れたら遡及して請求できますか?
渡辺 俊一
Q12. 経路を遠回りに申請するとどうなる?
渡辺 俊一
Q13. 通勤手当の年間上限はありますか?
渡辺 俊一
Q14. 出張時の交通費は通勤手当と別に支給されますか?
渡辺 俊一
Q15. 派遣社員にも交通費は支給されますか?
渡辺 俊一
まとめ|中小企業の通勤手当は「規程+運用+見直し」の三位一体
最後に重要なポイントを3つ振り返ります。
- 通勤手当は法的義務ではないが、規程で定めれば支払義務発生。「うちは交通費なし」は違法ではないが、人材確保力では大きなマイナスです。
- 非課税限度額は月15万円(公共交通機関)/マイカーは距離別(最高で95km以上=月66,400円)。社会保険料は所得税非課税でも別計算で課税対象になる点に注意。
- 同一労働同一賃金とテレワーク対応で規程の見直しが必須。パート・有期雇用に正社員と異なる支給は違法リスク、テレワーク導入時は実費日額への切替を検討。
HR BrEdge社会保険労務士法人では、大阪・東京・福岡・名古屋を中心に全国47都道府県対応で、通勤手当規程の整備・テレワーク対応への切替支援・同一労働同一賃金の社内チェック・給与計算アウトソースまで、人事担当者の実務を一気通貫でサポートしています。「規程が古いまま気になっている」「テレワーク導入で見直しが必要」というご相談は大歓迎です。
渡辺 俊一
この記事の執筆者
![]() 渡辺 俊一 (わたなべ としかず) |
HR BrEdge社会保険労務士法人 代表 1977年兵庫県神戸市生まれ。関西学院大学法学部法律学科卒業後、日本マクドナルド株式会社に入社。2005年社会保険労務士試験に合格し、2007年に渡辺社会保険労務士事務所を開設。2016年法人化し、2025年5月に「HR BrEdge社会保険労務士法人」へ社名変更。 顧問先500社超・実績970社以上を誇り、「会社の財産は人・人・人である」を信念に、従業員・お客様・社会の「三方良し」の経営支援を実践。給与計算・社会保険手続き・就業規則・助成金申請から、IPO・M&Aに向けた労務監査まで幅広く対応。 著書『頂点をめざす!~経営者のパートナーとして歩む社労士の物語~』はAmazon「社会保険労務士の資格・検定」部門で1位を獲得。
【所属】全国社会保険労務士連合会/大阪府社会保険労務士会/一般社団法人EO Osaka |





