こんにちは。HR BrEdge社会保険労務士法人代表、特定社会保険労務士の渡辺俊一(わたなべとしかず)です。
「出産育児一時金と出産手当金って何が違うんですか?」「両方もらえるって本当ですか?」「結局どっちが得ですか?」——大阪・東京・福岡・名古屋など全国の中小企業の人事労務担当者様や産休を控えた従業員さんから、私のもとに毎月のようにこうしたご相談が寄せられます。
名前が似ているうえ、申請先も支給額もまったく違うため、「自分が何をいくらもらえるのか」「いつ、どうやって申請するのか」が分かりにくい——というのが実情です。さらに、2023年4月から出産育児一時金が42万円から50万円へ大幅引き上げされており、古い情報のままでは正しい金額も伝えられません。
本記事では、HR BrEdge社会保険労務士法人が顧問先500社超の実務で見てきた事例も交えながら、出産育児一時金と出産手当金の違い、両方もらえる条件、最新の支給額、申請方法、そして経営者・人事担当者が産休従業員にできるサポートまで、社労士の視点でわかりやすく解説します。
出産育児一時金と出産手当金の違いをかんたんに比較|結論:要件を満たせば両方もらえます
結論から先にお伝えすると、会社員(健康保険の被保険者)なら、出産育児一時金と出産手当金の両方を受給できます。給付の目的がまったく違うため、併給を制限するルールがないからです。

結論:会社員なら2つの給付金が両方もらえる
出産育児一時金は「出産費用の補填」を目的とした一律給付、出産手当金は「産休中の所得補償」を目的とした給与連動型給付です。性質が異なるため、要件を満たせば両方を受け取れる——これが大原則です。
ただし、国民健康保険(国保)に加入している自営業者や、配偶者の被扶養者(専業主婦等)の方は、出産育児一時金のみ受給可能で、出産手当金は対象外となります。ここは後ほど詳しく解説します。
産休→出産→育休、3つの給付金のタイムライン
出産前後は実は3つの給付金が連続で支給されます。整理すると以下のとおりです。
1. 出産育児一時金:出産時に1回(一律50万円)
2. 出産手当金:産前42日〜産後56日(合計98日、多胎は154日)
3. 育児休業給付金:育児休業開始から子が原則1歳になるまで
出産時の一時金、産休中の手当金、育休中の給付金。この3つを時期をずらして受給できるのが、産休・育休制度の経済支援の全体像です。
渡辺 俊一
出産育児一時金とは?わかりやすく解説する制度の概要と最新支給額
名前が似ている2つの給付金ですが、まずは「出産育児一時金」から整理していきましょう。
出産育児一時金の目的:出産費用の経済的負担を軽減する
正常な妊娠・出産は健康保険の医療給付の対象外で、原則として全額自己負担になります。出産費用は地域差はあるものの、全国平均で約47万円〜55万円が一般的です。この負担を軽減するために、健康保険法に基づき支給されるのが出産育児一時金です。
2023年4月に42万円から50万円へ大幅増額
少子化対策の一環として、出産育児一時金は2023年4月から42万円→50万円へ8万円引き上げられました。これは過去最大の増額幅です。実際の支給額は以下のとおりです。
産科医療補償制度に加入している医療機関で出産:50万円
未加入の医療機関で出産:48.8万円
差額の1.2万円は、産科医療補償制度の掛金相当分です。ほとんどの分娩施設は加入しているため、多くの方は50万円を受け取ることになります。
双子・三つ子(多胎妊娠)は人数分が支給される
多胎妊娠の場合は、胎児1人につき50万円が支給されます。双子なら100万円、三つ子なら150万円です。死産・流産であっても、妊娠85日(4ヶ月)以後であれば支給対象になります。
対象者は被扶養者・国保加入者まで広い
出産育児一時金は、健康保険の医療給付の一種なので、被保険者本人だけでなく、被扶養者(専業主婦の配偶者等)や国民健康保険加入者も受給できます。具体的には以下のいずれかに該当する方が対象です。
・健康保険・共済組合の被保険者本人(妊娠4ヶ月以上で出産)
・健康保険・共済組合の被扶養者(妊娠4ヶ月以上で出産)
・国民健康保険の加入者(妊娠4ヶ月以上で出産)
「出産」の法的定義は妊娠85日(4ヶ月)以後
協会けんぽの公式定義では、健康保険でいう「出産」とは妊娠85日(4ヶ月)以後の生産(早産含む)・死産・人工妊娠中絶を指します。つまり、4ヶ月以後であれば、生産・死産・流産・人工妊娠中絶のいずれであっても出産育児一時金は支給対象です。逆に、妊娠4ヶ月未満の流産は対象外となります。
出産手当金とは?対象者・支給条件・支給期間をわかりやすく解説
続いて「出産手当金」を解説します。出産手当金は、出産育児一時金とはまったく別の目的・別の対象者の制度です。
出産手当金の目的:産休中の所得補償
産前産後休業の期間中(産休中)は、原則として無給です。給与が止まる期間の生活を支えるために、健康保険法に基づいて支給されるのが出産手当金です。「働く女性のための所得補償」と言い換えるとわかりやすいかもしれません。
出産手当金の対象者は被保険者本人のみ
ここが出産育児一時金と最も大きく異なる点です。出産手当金は、健康保険の被保険者本人(会社員・公務員)が出産した場合のみが対象で、以下の方は対象外です。
・国民健康保険(国保)加入者:対象外(自営業者・フリーランス等)
・被扶養者:対象外(専業主婦等、配偶者の扶養に入っている方)
・任意継続被保険者:対象外(退職後も継続加入している方)
パートやアルバイトでも、社会保険に加入していれば対象になります。一方、自営業の方が国保で加入している場合は、出産手当金(産休手当)に相当する制度がないため受給できないのが現状です。一部の医師国保・建設国保等の業種別国保組合では独自の手当を設けているケースもありますので、加入先の国保組合に確認してみてください。
支給期間は出産日以前42日+出産後56日=98日
出産手当金の支給期間は、出産日(または出産予定日)の前42日(多胎妊娠は98日)から、出産翌日以後56日までのうち、仕事を休んだ日数分が対象です。
・通常出産:合計98日(産前42日+産後56日)
・多胎妊娠(双子以上):合計154日(産前98日+産後56日)
出産が予定日より早まった場合は、産前期間が短くなり日数が減ります。逆に予定日より遅れた場合は、遅れた日数分が産前期間に追加されます。
支給額の計算式と試算例
出産手当金の1日あたり支給額は、標準報酬日額の3分の2です。具体的には以下の計算式になります。
1日あたり支給額=(過去12ヶ月の標準報酬月額の平均額÷30日)×2/3
たとえば標準報酬月額が30万円の方なら、日額1万円×2/3=約6,667円。98日分で約65万3千円が支給される計算です。月額40万円なら約87万1千円、月額50万円なら約108万9千円が目安となります。
出産手当金と出産育児一時金の違いを5つのポイントで比較
ここまでの内容を、5つのポイントで一覧整理します。「結局なにが違うのか?」を一目で把握いただける比較表です。

ポイント1:制度の目的の違い
出産育児一時金は出産費用の補填、出産手当金は産休中の所得補償。目的がまったく違うので、両方を併用することができます。
ポイント2:支給額の違い(一律 vs 給与連動)
出産育児一時金は一律50万円(産科医療補償制度未加入機関は48.8万円)。一方、出産手当金は標準報酬日額×2/3×支給日数で、給与水準と支給日数によって金額が変わります。
ポイント3:対象者の違い(被扶養者・国保の扱い)
出産育児一時金は被保険者・被扶養者・国保加入者すべて対象。出産手当金は被保険者本人のみで、被扶養者・国保加入者は対象外です。ここを混同すると「もらえると思っていたのに受給できなかった」というトラブルにつながります。
ポイント4:申請先の違い
出産育児一時金は、直接支払制度を使う場合は医療機関経由で加入の健康保険組合へ申請。出産手当金は勤務先(人事・総務)経由で加入の健康保険組合へ申請するのが一般的です。
ポイント5:受給タイミングの違い
出産育児一時金は出産時に1回(直接支払制度なら出産費用と相殺、自己負担差額のみ精算)。出産手当金は産休後にまとめて入金されるため、産休後3〜4ヶ月程度の時間差があります。
出産手当金と出産育児一時金は両方もらえる?「どっちが得」と迷う前の併給ルール
「両方もらえるって本当?」「どっちが得?」というご質問は、私の事務所でも本当によく受けるご相談です。結論から整理しましょう。
結論:会社員(被保険者)なら両方もらえる
給付目的が違うため、両方を併用することに何の制限もありません。会社員女性が出産した場合は、出産育児一時金と出産手当金の両方を受給するのが標準です。一時金は出産費用に、手当金は産休中の生活費に充てるイメージで使い分けてください。
国保加入者・被扶養者は出産育児一時金のみ
一方で、以下のケースでは出産手当金は受給できず、出産育児一時金のみの支給となります。
・国保加入の自営業者・フリーランス本人:出産育児一時金(50万円)のみ
・会社員の配偶者で被扶養者の専業主婦:出産育児一時金(50万円)のみ
・退職後の任意継続被保険者:出産育児一時金(50万円)のみ(※後述の継続給付の例外あり)
第1子育休中に第2子を妊娠した場合の取扱い
第1子の育児休業中に第2子を妊娠・出産するケースも実務ではよくあります。この場合、被保険者資格は継続しているため、第2子の出産でも出産育児一時金・出産手当金の両方が受給可能です。ただし、育児休業給付金とは支給期間が重複しないため、産前産後休業に切り替わるタイミングで給付の種類も切り替わります。
育児休業給付金との関係(時系列で整理)
出産手当金と育児休業給付金は、支給対象期間が重ならない設計になっています。具体的には以下の流れです。
産前42日(多胎98日)〜出産日:出産手当金
出産翌日〜産後56日:出産手当金
産後56日翌日〜育休終了:育児休業給付金
つまり、出産後57日目から「出産手当金」のスイッチが切れて、「育児休業給付金」のスイッチが入る——というイメージです。育児休業給付金については、2025年4月から「育休中の給付金が手取り10割相当」となる改正もあり、産休・育休連続取得の経済的負担はかなり軽くなっています。
渡辺 俊一
出産育児一時金 申請方法|直接支払制度・受取代理制度・産後申請制度の使い分け
出産育児一時金には、3つの受取方法があります。それぞれの特徴と使い分けを整理します。

直接支払制度(最もシンプル・利用率9割超)
現在、出産育児一時金の受取は9割以上が「直接支払制度」で行われています。仕組みは以下のとおりです。
・医療機関が健康保険組合に直接50万円を請求
・妊婦本人は、出産費用と50万円の差額のみを医療機関に支払う
・出産費用が50万円を下回った場合は、差額が後日健康保険組合から振り込まれる
申請書類は医療機関の窓口で記入する形が一般的で、本人の手間は最小限です。出産費用が50万円を超える場合のみ自己負担が発生するため、現金準備の負担が大幅に軽減されます。
受取代理制度(小規模医療機関向け)
直接支払制度を導入していない小規模分娩施設(年間分娩件数100件以下等)で利用される制度です。妊婦本人が出産前に健康保険組合へ事前申請し、医療機関が受取代理人として50万円を受け取ります。実質的には直接支払制度と同様の自己負担軽減効果があります。
産後申請制度(事後請求)
出産費用を全額自己負担で立替払いし、退院後に加入の健康保険組合へ事後請求する方法です。海外出産・里帰り出産・直接支払を導入していない医療機関での出産等で利用されます。出産時点での現金準備は必要になりますが、申請後1〜2ヶ月程度で50万円が振り込まれます。
出産手当金 申請方法と必要書類|退職予定者・国保加入者の取扱い
出産手当金の申請は、産休前・産休中・産休後の3ステップで進めます。各ステップで誰が何を記入するかが決まっているため、流れを把握しておくとスムーズです。

ステップ1:産休前の準備(書類受領・本人記入欄)
勤務先の人事・総務部門、または加入の健康保険組合から「健康保険出産手当金支給申請書」を入手します。本人記入欄(氏名・住所・口座情報・出産予定日等)を記入しておきます。
ステップ2:産休中(医師・助産師の証明)
出産時の入院中に、申請書の「医師・助産師記入欄」に出産日・在胎週数・出産者・出産種別等を記入してもらいます。退院前に必ず受け取ってください。
ステップ3:産休後(事業主証明・提出)
産休期間が終わった後、勤務先に申請書を提出し、「事業主記入欄」に産休期間中の給与支払状況を記入してもらいます。事業主証明済みの申請書を、勤務先経由または本人から加入の健康保険組合へ提出します。
提出後、健康保険組合での審査を経て、1〜2ヶ月後に指定口座へ振込されます。
退職予定者の出産手当金(条件付きで継続受給可能)
退職する予定の方でも、以下の3条件をすべて満たせば、退職後も継続して出産手当金を受給できます(資格喪失後の継続給付)。
条件1:退職日まで継続して1年以上、健康保険の被保険者であった
条件2:退職日が出産手当金の支給期間内(産前42日〜産後56日)にある
条件3:退職日に出勤していない(休んでいる)
特に条件3「退職日に出勤していない」は意外と見落とされがちです。退職日に挨拶のために出社するだけでも、継続給付の対象外になってしまいます。私の顧問先でも「最終日に挨拶に行ったことで、その後の手当金が受給できなくなった」という残念なケースを過去に経験しています。退職日は必ず休んでください。
国保加入者は出産手当金(産休手当)の対象外
繰り返しになりますが、国民健康保険には出産手当金の制度がありません。自営業・フリーランスの方は、産休中の所得補償を別途備える必要があります。具体的には民間の所得補償保険、配偶者の被扶養者になる選択、貯蓄での備え等が現実的な選択肢です。
ただし、医師国保・建設国保・全国土木建築国民健康保険組合等の業種別国保組合では、独自の出産手当を設けているケースもあります。加入先の国保組合に必ず確認してみてください。
外国人従業員・海外出産時の出産育児一時金の取扱い
近年は外国人従業員や、海外出産・里帰り出産のご相談も増えています。基本的なルールを整理します。
外国人従業員本人が日本国内で出産した場合
日本の健康保険の被保険者であれば、国籍・在留資格を問わず、日本人と同様に出産育児一時金(50万円)と出産手当金が支給されます。在留資格が「技術・人文知識・国際業務」「特定技能」「永住者」等のいずれであっても、健康保険加入者であれば差はありません。
外国人配偶者が被扶養者として出産した場合
会社員(健康保険被保険者)の外国人配偶者が、日本の健康保険の被扶養者として認定されていれば、出産育児一時金(50万円)が支給されます。ただし、2020年4月から被扶養者認定要件が厳格化され、原則として日本国内に居住していることが要件となりました(留学・海外赴任同行等の例外あり)。
海外で出産した場合の取扱い
日本の健康保険の被保険者・被扶養者が海外で出産した場合も、産後申請制度(事後請求)で出産育児一時金(50万円相当)を受給可能です。必要書類は以下のとおりです。
・現地医療機関の出産費用領収書(現地通貨建て)
・出生証明書(翻訳付き)
・パスポートの出入国記録
・海外出産者の戸籍謄本
申請から振込までは2〜3ヶ月程度かかるケースが多く、現金準備は出産時に必要になります。
渡辺 俊一
出産育児一時金・出産手当金に関するよくある質問(FAQ)
Q. 出産手当金と出産育児一時金、結局どっちが得ですか?
渡辺 俊一
Q. 国保加入の自営業者は産休手当(出産手当金)はもらえますか?
渡辺 俊一
Q. 出産育児一時金と育児休業給付金は両方もらえますか?
渡辺 俊一
Q. 帝王切開で出産した場合は何が変わりますか?
渡辺 俊一
Q. 退職予定ですが、退職後も出産手当金をもらえますか?
渡辺 俊一
この記事の執筆者
![]() 渡辺 俊一 (わたなべ としかず) |
HR BrEdge社会保険労務士法人 代表 1977年兵庫県神戸市生まれ。関西学院大学法学部法律学科卒業後、日本マクドナルド株式会社に入社。2005年社会保険労務士試験に合格し、2007年に渡辺社会保険労務士事務所を開設。2016年法人化し、2025年5月に「HR BrEdge社会保険労務士法人」へ社名変更。 顧問先500社超・実績970社以上を誇り、「会社の財産は人・人・人である」を信念に、従業員・お客様・社会の「三方良し」の経営支援を実践。給与計算・社会保険手続き・就業規則・助成金申請から、IPO・M&Aに向けた労務監査まで幅広く対応。 著書『頂点をめざす!~経営者のパートナーとして歩む社労士の物語~』はAmazon「社会保険労務士の資格・検定」部門で1位を獲得。 【所属】全国社会保険労務士連合会/大阪府社会保険労務士会/一般社団法人EO Osaka |






