こんにちは。HR BrEdge社会保険労務士法人代表、特定社会保険労務士の渡辺俊一(わたなべとしかず)です。
「60歳を超えた社員は社会保険に入らなくていいんじゃ?」「定年再雇用で給与が下がるのに保険料はそのまま、なんとかならない?」「在職老齢年金がカットされるのが嫌で『加入したくない』と社員から相談されたが、どう答えればいい?」——大阪・東京・福岡・名古屋を中心に、HR BrEdgeの顧問先500社の人事担当者からも、こうした高齢雇用と社会保険にまつわるご相談が年々増えています。
結論からお伝えします。60歳以上でも条件を満たせば社会保険(厚生年金・健康保険)の加入は義務です。「60歳だから自動的に外れる」は完全な誤解で、誤った運用は監督指導・追徴のリスクにつながります。一方で、同日得喪を使えば保険料を月3〜5万円下げられる選択肢があり、2026年4月からは在職老齢年金の支給停止基準額が50万円から65万円に引き上げ予定で、加入メリットも見直されつつあります。
こんなお悩みを感じていませんか?
- 「定年再雇用者の社保加入判定で迷う」(人事担当者)
- 「同日得喪を活用したいが手順が分からない」(給与計算担当者)
- 「『加入したくない』と社員から言われた、どう対応すれば?」(人事担当者)
- 「在職老齢年金でカットされるなら加入しないほうが得?」(60歳以上本人)
- 「60歳以上の扶養基準は本当に180万円?」(パート本人)
この記事では、法的根拠と年齢上限、8パターン別の加入義務判定マトリックス、パート短時間労働者の5要件、60歳以上の扶養基準180万円ルール、定年再雇用と同日得喪、在職老齢年金の2026年4月改正、メリット5つ・デメリット3つ、「加入したくない」社員・経営者への正面回答まで、人事担当者・経営者・60歳以上の本人の全方位視点で詳しく解説します。

60歳以上も社会保険は原則加入義務|法的根拠と年齢上限
まず、社会保険の加入義務は法律で明確に定められています。年齢上限と法的根拠を整理します。

厚生年金保険法第9条|70歳未満が加入対象
厚生年金保険法第9条により、適用事業所に常時雇用される70歳未満の労働者は厚生年金保険の被保険者となります。60歳という年齢で自動的に資格を喪失することはありません。条件を満たして雇用されていれば、70歳到達まで加入が継続します。
健康保険法第3条|75歳未満が加入対象
健康保険法第3条により、75歳未満の労働者が健康保険の加入対象です。75歳到達日からは後期高齢者医療制度へ自動的に移行します。健康保険組合に加入していた場合も同様で、75歳の誕生日の前日に資格喪失となります。
その他の社会保険制度の年齢上限
関連する制度の加入対象年齢も併せて整理します。
| 制度 | 加入対象年齢 |
| 健康保険 | 75歳未満(以降は後期高齢者医療制度) |
| 厚生年金保険 | 70歳未満 |
| 介護保険(第2号被保険者) | 40歳〜64歳(65歳以降は第1号) |
| 雇用保険 | 年齢上限なし(65歳以上は高年齢被保険者) |
| 労災保険 | 年齢上限なし |
加入条件の8パターン別判定マトリックス
「うちの社員はどのパターンに該当するか」を8つのパターンで整理します。これさえ覚えれば、加入義務の判定で迷うことはありません。

パターン①〜④:雇用形態別の加入義務判定
- ①正社員(フルタイム):70歳/75歳まで加入義務あり(年齢問わず)
- ②嘱託・再雇用(フルタイム相当):通常の労働者の4分の3以上の労働時間・日数で加入義務あり
- ③パート短時間労働者:5要件(後述)を満たせば加入義務あり
- ④パートフル相当(4分の3基準):通常労働者の4分の3以上で加入義務あり(企業規模問わず)
パターン⑤〜⑧:特殊ケース
- ⑤同日得喪後:標準報酬月額改定後の保険料で加入継続
- ⑥70歳到達後:厚生年金は適用除外(健康保険は75歳まで継続)
- ⑦75歳到達後:健康保険も後期高齢者医療制度へ移行
- ⑧業務委託契約:雇用関係でないため社会保険の加入対象外(ただし実態が雇用なら強制加入のリスクあり)
渡辺 俊一
パート・短時間労働者の加入条件|2024年10月適用拡大の影響
短時間労働者の社会保険加入条件は、2024年10月から大きく変わりました。最新ルールを整理します。
短時間労働者の5要件
パート・アルバイトの短時間労働者は、次の5要件をすべて満たすと社会保険加入義務が発生します。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金が88,000円以上(年収約106万円)
- 雇用見込みが2か月超
- 学生でない
- 勤務先の被保険者数が51人以上(2024年10月施行)
2024年10月施行の適用拡大
従来は被保険者数101人以上の企業のみが対象でしたが、2024年10月から51人以上に拡大されました。これにより、約50万人の短時間労働者が新たに加入対象となりました。中小企業でも社員数が増えてくると突然対象になるため、毎年の確認が必要です。
2027年10月以降の段階的撤廃スケジュール
厚生労働省は、企業規模要件を段階的に撤廃する方針を公表しています。2027年10月以降、企業規模要件は段階的に縮小され、最終的に企業規模に関わらずすべての企業で短時間労働者の社会保険適用が予定されています。中小企業もパート社員の社保コストを今のうちに試算しておくことをおすすめします。
60歳以上の扶養基準|180万円ルール(130万円との違い)
「うちの妻(夫)はパートだが扶養に入れる?」というご質問は、60歳以上のパート本人と配偶者の両方からよく受けます。60歳以上の扶養基準は通常と異なるため、誤解しないよう整理します。
通常の扶養:年収130万円未満
通常の健康保険上の被扶養者の年収要件は130万円未満(かつ被保険者の年収の半分未満)です。年金の第3号被保険者の認定も同様の基準です。
60歳以上・障害年金受給者:年収180万円未満
60歳以上の人、または障害年金を受給している人は、年収180万円未満に基準が緩和されます。これは「高齢者・障害者は通常の130万円では生活が困難」という配慮に基づくものです。60歳以上のパート社員が「扶養範囲内で働きたい」と相談してきたら、180万円基準で計算してあげてください。
ただし、年収180万円未満を満たせば必ず扶養に入れるわけではありません。収入要件にはもう一つ「被保険者(扶養する側)の収入との比較」という条件があります。認定対象者が被保険者と同一世帯に属している場合は、年収180万円未満であることに加えて、被保険者の年間収入の2分の1未満であることが必要です。同一世帯でない(別居の)場合は、被保険者からの仕送り額より収入が少ないことが要件になります(出典:日本年金機構)。たとえば、被保険者である夫の年収が300万円なら、その2分の1である150万円未満でないと扶養に入れません。180万円ぎりぎりまで働くと、かえって扶養から外れてしまうケースがあるので注意してください。
扶養に入れる場合でも、自身が短時間労働者要件を満たすと強制加入
ここが最も誤解されやすいポイントです。扶養基準(180万円未満)に該当しても、本人が前述の「短時間労働者の5要件」をすべて満たすなら、本人として強制的に社会保険に加入することになります。たとえば年収130万円・週25時間・月額10万円・企業規模51人以上のパートは、扶養基準は満たしても自身が加入対象です。「扶養判定」と「社保加入義務判定」はまったく別の制度であり、両者を混同しないことが重要です。
定年再雇用と同日得喪|保険料を即時改定する方法
60歳定年で再雇用される際に給与が大幅に下がっても、通常の月額変更届では3か月かかります。しかし「同日得喪」を使えば即時に保険料を引き下げられます。これを知らないと、3か月間も高い保険料を払い続けることになります。

同日得喪とは|退職と再雇用を同日付で処理
同日得喪とは、退職と再雇用を同じ日付で同時処理する仕組みです。具体的には「資格喪失届」と「資格取得届」を同日付で年金事務所・健保組合に提出します。これにより、再雇用時点の新しい給与額で標準報酬月額が即時改定されます。
標準報酬月額の即時改定で保険料が大幅減
具体例で見てみましょう。月給45万円(標準報酬月額45万円)の社員が定年再雇用で月給28万円(標準報酬月額28万円)に下がる場合:
- 同日得喪なしの場合:3か月平均で月額変更届を出すため、変動から4か月後に保険料が下がる
- 同日得喪ありの場合:再雇用月から新しい保険料に。本人負担で月3〜5万円の削減が可能
手続きの流れ|資格喪失届+資格取得届を同日付で提出
同日得喪の実務手順は次のとおりです。
- 定年再雇用の決定(雇用契約書・労働条件通知書)
- 新給与額の確定(標準報酬月額の見込み計算)
- 退職日(=再雇用日の前日)付で「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」を提出
- 再雇用日付で「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を提出
- 新しい保険証の交付・給与計算ソフトの設定変更
添付書類として、退職と再雇用の事実を証明できる「就業規則」「雇用契約書」「退職辞令」等の写しが求められることがあります。
在職老齢年金との関係|2026年4月改正で50万→65万に緩和
「年金がカットされるのが嫌で加入したくない」という相談の根源にあるのが、在職老齢年金の支給停止制度です。2026年4月改正で大きく緩和される予定なので、ここを正確に理解しておきましょう。
在職老齢年金とは|給与+年金が一定額超で年金カット
在職老齢年金とは、65歳以上の在職中の厚生年金加入者が、給与(総報酬月額相当額)+年金(基本月額)の合計が支給停止調整額を超えた場合、超過分の半分が年金から支給停止される制度です。完全に支給停止になるのではなく「半分カット」される仕組みです。
支給停止基準額の改正|2024-2025年度50万円→2026年4月から65万円へ
支給停止調整額は次のように改定されます。
| 年度 | 支給停止調整額 |
| 2024年度(令和6年度) | 50万円 |
| 2025年度(令和7年度) | 51万円 |
| 2026年4月以降(予定) | 65万円程度に大幅引き上げ |
2026年4月の改正で基準額が大幅に引き上げられるため、年金カットの対象者が大きく減ります。月給40万円+年金月額20万円のケースでも、合計60万円なら2026年4月以降は年金カットの対象外です。
70歳以上の取扱い
70歳以降は厚生年金の加入対象外ですが、在職老齢年金の調整は適用されます。70歳以降も働きながら年金を受け取る場合は、支給停止調整額との比較で年金カットが発生する可能性があります。
60歳以上が社会保険に加入するメリット5つ・デメリット3つ
本人の判断材料として、加入のメリット・デメリットを整理します。短期的なデメリットだけ見ると損に思えますが、長期の年金額アップを含めるとほぼメリット優位です。

メリット5つ
- 老齢厚生年金が増える:60歳から65歳まで5年加入で年金が年6.5万〜9.8万円増加(月収20〜30万円のケース)
- 労使折半で保険料負担は半分:国民健康保険・国民年金より実質安いケースが多い
- 健康保険給付が受けられる:傷病手当金(最長1年6か月)・出産手当金等
- 「20年の壁」と加給年金:厚生年金加入20年以上で加給年金(配偶者223,800円・子各223,800円)が付加
- 経過的加算で老齢基礎年金部分も増える:60歳以降の加入期間が老齢厚生年金に上乗せ
デメリット3つ
- 保険料負担で手取りが減る:標準報酬月額に応じて月数万円の負担
- 在職老齢年金カットの可能性:65歳以上の場合、給与+年金が50万円(2026年4月以降は65万円)超で年金カット
- 高年齢雇用継続給付との調整:給付金と年金の併給調整が発生
長期的には、加入メリットが大きい場合がほとんどです。10年・20年と加入年数が延びるほど年金額の上乗せ効果は顕著で、加給年金(年22万円超)が付くと一気に逆転します。
「加入したくない」社員・経営者へ|誤解解消と適法な選択肢
サジェスト「加入したくない」「加入しない」で検索される方は、本人または経営者のどちらかです。それぞれの誤解と、適法な選択肢を整理します。
「条件を満たすと加入義務」|意図的な条件調整は違法リスク
大原則として、社会保険加入要件を満たす雇用形態を取りながら、形式的に「加入しない」ことは違法です。具体的には次のような行為は監督指導・追徴のリスクがあります。
- 労働時間を実態と異なる「週20時間未満」と契約書に記載(実態は40時間)
- 業務委託契約に切り替えるが実態は雇用(偽装請負)
- 給与を分割して別法人から支給(実態は単一の雇用)
適法な選択肢|短時間労働への実態調整
本人が本当に短時間労働を希望する場合は、実態として週20時間未満に労働時間を調整するのは適法です。家族との時間を増やしたい、健康優先で短時間にしたい等の理由があれば、雇用契約書を変更し、実際に勤務時間を減らせば社保加入対象外になります。
同日得喪+助成金活用でコスト最適化
経営者として「人件費・社保コストを抑えたい」場合の適法な選択肢は次のとおりです。
- 同日得喪で標準報酬月額を即時改定
- 65歳超雇用推進助成金の活用
- 高年齢労働者処遇改善助成金の活用
- 業務内容・責任に応じた合理的な賃金設計(再雇用時の給与減)
渡辺 俊一
60歳以上の社会保険に関するよくある質問(FAQ)
Q1. 60歳以上は社会保険に入らなくていいですか?
渡辺 俊一
Q2. 再雇用で給与が下がっても保険料は同じですか?
渡辺 俊一
Q3. パートを週19時間に調整すれば加入不要ですか?
渡辺 俊一
Q4. 60歳以上の扶養基準は本当に180万円ですか?
渡辺 俊一
Q5. 加入したくない場合は会社を辞めるしかないですか?
渡辺 俊一
Q6. 在職老齢年金でカットされても加入するメリットはありますか?
渡辺 俊一
Q7. 70歳以降は厚生年金に加入しなくていい?
渡辺 俊一
Q8. 75歳以降の健康保険はどうなる?
渡辺 俊一
Q9. 高年齢雇用継続給付は2025年4月から変わりましたか?
渡辺 俊一
Q10. 同日得喪の手続きはいつまでに行う?
渡辺 俊一
Q11. 5年加入すると年金はいくら増えますか?
渡辺 俊一
Q12. 加給年金(20年の壁)とは何ですか?
渡辺 俊一
Q13. 失業給付と年金は同時受給できますか?
渡辺 俊一
Q14. 経過的加算とは何ですか?
渡辺 俊一
Q15. 嘱託契約に切り替えても加入義務はありますか?
渡辺 俊一
まとめ|「8パターン判定+同日得喪+誤解解消」で迷わない
最後に重要なポイントを3つ振り返ります。
- 60歳以上でも条件を満たせば社会保険加入は義務。厚生年金は70歳未満、健康保険は75歳未満が加入対象。「60歳で外れる」は完全な誤解です。8パターン別判定マトリックスで自社の判定を確認してください。
- 定年再雇用は同日得喪で保険料を即時改定。月3〜5万円の削減も可能なので、再雇用が決まった時点で同日得喪を計画しましょう。
- 2026年4月の在職老齢年金改正で「加入したくない」の誤解が解消されつつある。支給停止調整額が50万円→65万円に引き上げ予定で、年金カット対象者が大幅に減ります。加入メリットを正しく伝えることで、社員の選択も変わります。
HR BrEdge社会保険労務士法人では、大阪・東京・福岡・名古屋を中心に全国47都道府県対応で、定年再雇用時の同日得喪・社員向け説明会代行・65歳超雇用推進助成金の活用支援・高年齢者処遇改善助成金・給与計算アウトソースまで、人事担当者の実務を一気通貫でサポートしています。「初めての定年再雇用で運用に不安」「社員から『加入したくない』と相談された」というご相談を多くいただいています。お気軽にお問い合わせください。
渡辺 俊一
この記事の執筆者
![]() 渡辺 俊一 (わたなべ としかず) |
HR BrEdge社会保険労務士法人 代表 1977年兵庫県神戸市生まれ。関西学院大学法学部法律学科卒業後、日本マクドナルド株式会社に入社。2005年社会保険労務士試験に合格し、2007年に渡辺社会保険労務士事務所を開設。2016年法人化し、2025年5月に「HR BrEdge社会保険労務士法人」へ社名変更。 顧問先500社超・実績970社以上を誇り、「会社の財産は人・人・人である」を信念に、従業員・お客様・社会の「三方良し」の経営支援を実践。給与計算・社会保険手続き・就業規則・助成金申請から、IPO・M&Aに向けた労務監査まで幅広く対応。 著書『頂点をめざす!~経営者のパートナーとして歩む社労士の物語~』はAmazon「社会保険労務士の資格・検定」部門で1位を獲得。
【所属】全国社会保険労務士連合会/大阪府社会保険労務士会/一般社団法人EO Osaka |





