こんにちは。HR BrEdge社会保険労務士法人代表、特定社会保険労務士の渡辺俊一(わたなべとしかず)です。
「老齢厚生年金って国民年金とどう違うの?」「いくらもらえるの?」「いつから受け取れるの?」「特別支給ってよく聞くけど、自分はもらえる?」——大阪・東京・福岡・名古屋など、全国の中小企業の経営者・人事労務担当者様から、社員に質問されてうまく答えられなかったというご相談を、私のもとに毎月のようにいただきます。
老齢厚生年金は、会社員・公務員が老後に受け取る公的年金の柱です。しかし、制度が「2階建て」「3階建て」と複雑で、計算式や受給開始年齢、繰上げ繰下げ、在職老齢年金、特別支給など、押さえるべきポイントが多岐にわたります。さらに2022年4月の改正で繰下げ上限が75歳まで延長され、在職老齢年金の支給停止基準額も2026年4月から月65万円に引き上げられるなど、最新情報のキャッチアップも欠かせません。
本記事では、HR BrEdge社会保険労務士法人が顧問先500社超の実務で見てきた事例も交えながら、老齢厚生年金とは何かを、厚生年金(基礎年金)との違い・もらえる金額・もらえない人・特別支給のデメリット・繰上げ繰下げまで、社労士の視点でわかりやすく解説します。
老齢厚生年金とは?年金制度の2階建て構造をわかりやすく解説
老齢厚生年金を正しく理解するためには、まず日本の公的年金制度が「2階建て」になっていることを押さえる必要があります。さらに企業年金・iDeCoまで含めた「3階建て」の構造で覚えると、自分が将来いくらもらえるかの全体像が見えてきます。

公的年金の全体像|1階・2階・3階の構造
日本の年金制度は次の3層で構成されています。
1階:老齢基礎年金(国民年金)——20歳から60歳までの全国民が加入する公的年金
2階:老齢厚生年金(厚生年金)——会社員・公務員のみが追加で加入する公的年金
3階:企業年金・iDeCo——確定給付企業年金・確定拠出年金(企業型DC)・iDeCo等の私的年金
会社員・公務員の方は、1階の国民年金に加え、2階の厚生年金にも加入します。さらに会社が企業年金制度を持っていれば3階部分も上乗せされる、という構造です。
1階の老齢基礎年金(国民年金)とは
20歳から60歳までの40年間、すべての国民が加入する仕組みです。40年間(480ヶ月)すべて保険料を納めると、満額で月額約66,000円(令和6年度・新規裁定者)が支給されます。自営業者・フリーランス・専業主婦の方は、原則この基礎年金のみを受給することになります。
2階の老齢厚生年金(厚生年金)とは
会社員・公務員として厚生年金保険に加入していた方が、1階の老齢基礎年金に上乗せして受け取る公的年金です。受給額は現役時代の給与水準と加入期間で決まるため、人によって金額に大きな差が出ます。これが老齢厚生年金の最大の特徴です。
第1号〜第3号被保険者の違い
国民年金の被保険者は、加入の仕方で3つに分類されます。自分がどの号に該当するかで、将来もらえる年金の中身が変わります。
第1号被保険者:自営業者・フリーランス・学生・無職の方等。国民年金のみ加入。
第2号被保険者:会社員・公務員。国民年金+厚生年金の両方に加入。
第3号被保険者:第2号被保険者の被扶養配偶者(専業主婦等)。国民年金のみだが本人保険料負担なし。
渡辺 俊一
老齢厚生年金と老齢基礎年金(国民年金)の違いを5つのポイントで比較
名前が似ていて混同されがちな2つの年金ですが、性質はかなり違います。5つの軸で整理しましょう。

ポイント1:加入対象者の違い
老齢基礎年金は20〜60歳の全国民が加入対象。一方の老齢厚生年金は会社員・公務員(第2号被保険者)のみが対象です。自営業者は厚生年金には加入しないため、老齢厚生年金は受け取れません。
ポイント2:受給要件の違い
老齢基礎年金の受給要件は受給資格期間(保険料納付期間+免除期間)が10年以上あること。老齢厚生年金は、この基礎年金の要件に加えて厚生年金加入期間が1ヶ月以上必要です。「会社員時代は短かったから関係ない」と思っている方も、1ヶ月でも加入歴があれば老齢厚生年金は受給可能です。
ポイント3:計算方法の違い(一律 vs 給与連動)
老齢基礎年金は加入年数のみで決まる一律計算(40年加入で満額約66,000円/月)。老齢厚生年金は現役時代の給与水準と加入期間で決まるため、人によって金額が大きく異なります。年収500万円×40年勤務なら月18万円程度、年収700万円×40年なら月21万円程度が目安です。
ポイント4:支給開始年齢の違い
どちらも原則65歳から支給開始ですが、老齢厚生年金には生年月日によって65歳前から受給できる「特別支給の老齢厚生年金」という経過措置があります(後述)。基礎年金にはこの仕組みはありません。
ポイント5:繰上げ・繰下げの選択肢
どちらも60歳〜75歳の範囲で受給開始時期を選べます。早く受給すれば減額(最大24%減)、遅く受給すれば増額(最大84%増)と、受給戦略によって生涯受給額が変わります。
老齢厚生年金の受給要件3つ|もらえない人の条件
老齢厚生年金を受け取るためには、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。
要件1:老齢基礎年金の受給資格があること(受給資格期間10年以上)
2017年8月から、老齢基礎年金の受給資格期間が「25年以上」から「10年以上」へ短縮されました。保険料を納めた期間と免除を受けた期間の合計が10年以上あれば、まずこの要件はクリアです。
要件2:厚生年金保険の加入期間が1ヶ月以上あること
厚生年金保険の被保険者期間がたった1ヶ月でもあれば、老齢厚生年金の受給対象になります。「アルバイトから会社員になって、ほんの数ヶ月だけ社会保険に入ってた」というケースでも、その分は老齢厚生年金として上乗せされます。
要件3:65歳に達していること
原則として65歳で受給開始ですが、繰上げ受給で最短60歳から、繰下げ受給で最遅75歳まで開始時期を選べます。
老齢厚生年金をもらえない人とは?
3つの要件を満たさない方は受給できません。具体的には以下のケースが該当します。
・厚生年金に1ヶ月も加入歴がない方(自営業のみで生涯を過ごした方等)
・受給資格期間が10年未満の方(合算対象期間も10年に満たないケース)
・特別支給の老齢厚生年金がもらえない世代(男性は昭和36年4月2日以降、女性は昭和41年4月2日以降生まれ)→ 65歳からは受給可能だが、特別支給はなし
老齢厚生年金の金額|計算式・平均受給額・月額シミュレーション
「結局いくらもらえるの?」が、皆さんが一番気になるところだと思います。計算式と平均値、年収別シミュレーションを順に見ていきましょう。

老齢厚生年金の計算式(報酬比例部分)
老齢厚生年金の本体である「報酬比例部分」は、以下の式で計算します。
報酬比例部分=平均標準報酬月額×乗率×加入月数
ただし、平成15年4月以降は賞与(ボーナス)も含めた「平均標準報酬額」に変わり、計算式は2つに分かれます。
・平成15年3月以前の期間:平均標準報酬月額×7.125/1000×加入月数
・平成15年4月以降の期間:平均標準報酬額×5.481/1000×加入月数
2003年(平成15年)の総報酬制導入が境目で、それ以前と以後で計算式が分岐します。両方の期間がある方は、それぞれ計算して合計します。
厚生労働省データの平均受給額
厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業年報」によると、老齢厚生年金(老齢基礎年金を含む)の平均月額は以下の水準です。
・男性平均:月額約167,000円
・女性平均:月額約108,000円
女性平均が低めなのは、結婚・出産で就業期間が短くなる傾向があるためです。共働きが標準化していけば、今後この差は縮まっていくと予想されます。
年収・加入年数別の月額シミュレーション
「自分はだいたいいくらもらえる?」の目安として、現役時代の年収・加入年数別の月額シミュレーションをご紹介します(老齢基礎年金満額+老齢厚生年金の合計額・概算)。
・年収300万円×加入40年:月額約12〜13万円
・年収500万円×加入40年:月額約16〜18万円
・年収700万円×加入40年:月額約20〜22万円
・年収900万円×加入40年:月額約23〜25万円
あくまで目安で、賞与の有無や昇給ペース、就業期間で変動します。正確な見込額は「ねんきん定期便」または日本年金機構の「ねんきんネット」で必ず確認してください。
加給年金(年下配偶者がいる場合の加算)
老齢厚生年金の受給開始時に、生計を維持する年下配偶者(65歳未満)または18歳未満の子がいる場合、「加給年金」として年額約40万円程度が加算されます。配偶者が65歳に到達すると加給年金は終了し、配偶者本人の老齢基礎年金に「振替加算」が付く仕組みです。
特別支給の老齢厚生年金とは?もらえない人とデメリット
制度の経過措置として、生年月日によっては65歳前から老齢厚生年金を受給できる「特別支給の老齢厚生年金」があります。サジェストでもよく検索される項目で、「自分は対象なのか?」を見極めることがとても重要です。

特別支給の老齢厚生年金の制度概要
1985年(昭和60年)の年金制度改正で、厚生年金の支給開始年齢が60歳から65歳へ段階的に引き上げられました。その経過措置として、生年月日に応じて60〜64歳から「報酬比例部分」を受給できる仕組みが残されています。これが特別支給の老齢厚生年金です。
もらえない人の生年月日の境目(最重要)
特別支給の老齢厚生年金は、段階的に廃止されています。以下の生年月日以降の方は完全に対象外になります。
・男性:昭和36年4月2日以降生まれ → 特別支給はなし、原則どおり65歳から
・女性:昭和41年4月2日以降生まれ → 特別支給はなし、原則どおり65歳から
逆に、これより前に生まれた方は、生年月日に応じて61〜64歳から段階的に受給開始できます。具体的な年齢は図解の生年月日マップでご確認ください。
特別支給の3つのデメリット(要注意)
特別支給は「もらえる方は素直にもらった方が得」と一般に言われますが、以下のデメリットも知っておく必要があります。
1. 在職中は減額・支給停止される可能性がある——在職老齢年金の対象になるため、給与+年金が月65万円超だと減額されます。
2. 税金・社会保険料の負担が増える——年金収入が増えることで、住民税・健康保険料の計算ベースが上がります。
3. 繰下げ受給ができない——65歳前にもらえる特別支給は、65歳以降の本来の老齢厚生年金とは別物。繰下げによる増額(最大84%増)の対象になりません。
請求権の時効は5年(手続き忘れに注意)
特別支給の老齢厚生年金は、請求権発生から5年で時効消滅します。「もらえる年齢になったのに知らなかった」と過ぎてしまうと、その分は永久に受け取れなくなります。
渡辺 俊一
老齢厚生年金の繰上げ・繰下げ受給|2022年改正で75歳まで延長
原則65歳が受給開始ですが、60歳まで早める「繰上げ」と75歳まで遅らせる「繰下げ」が選べます。どちらを選ぶかで、生涯受給額が大きく変わります。
繰上げ受給(最大24%減)
60歳から65歳までの間で繰上げ受給を選択できます。受給開始時期を1ヶ月早めるごとに0.4%減額。最大の60歳開始だと24%減額(=76%支給)で、この減額率は生涯固定です。
2022年4月の改正で、減額率が0.5%から0.4%へ縮小されました。これにより繰上げ受給のハードルが少し下がっています。
繰下げ受給(最大84%増)
2022年4月の改正で、繰下げ可能年齢が70歳→75歳に延長されました。1ヶ月遅らせるごとに0.7%増額。最大の75歳開始なら84%増(=184%支給)で、この増額率も生涯固定です。
2022年4月改正の3つのポイント
1. 繰下げ上限が70歳→75歳に延長(最大増額率も42%→84%へ大幅拡大)
2. 繰上げ減額率が0.5%→0.4%に縮小(同じ60歳開始でも30%減→24%減に改善)
3. 在職老齢年金の基準が60〜64歳・65歳以上で一本化(後述)
繰下げ受給の注意点
繰下げで増額対象になるのは、本人の老齢厚生年金本体のみです。加給年金は繰下げ加算の対象外で、繰下げ期間中は加給年金も支給されません。年下配偶者がいる方は、加給年金の打切りタイミングを踏まえて繰下げ判断するのが実務上のポイントです。
在職老齢年金|働きながら年金を受け取ると減額される仕組み
60歳以降も働きながら年金を受け取る方は、給与と年金の合計額によって年金が一部停止される「在職老齢年金」の仕組みがあります。定年再雇用が普及した今、知っておかないと「働き損」になりかねません。
2022年4月改正で60〜64歳と65歳以上の基準が一本化
従来は60〜64歳が「月28万円超で減額」、65歳以上が「月47万円超で減額」と基準が分かれていました。2022年4月の改正で基準が一本化され、その後の毎年度の見直しを経て、2026年4月からは月65万円基準に引き上げられています。
在職老齢年金の計算式
支給停止額 =(基本月額+総報酬月額相当額 − 支給停止調整額65万円)÷2
・基本月額:老齢厚生年金(年額)÷12
・総報酬月額相当額:標準報酬月額+(その月以前1年間の標準賞与額の合計÷12)
・支給停止調整額:月65万円(2026年4月〜)
合計が65万円以下なら全額支給。65万円超の場合、超過額の半分が支給停止されます。
具体的な計算例
例:基本月額10万円、総報酬月額相当額46万円(標準報酬月額36万円+標準賞与額の月額換算10万円)=合計56万円のケース
・改正前(基準51万円):(10万円+46万円−51万円)÷2=支給停止2.5万円(支給額7.5万円)
・改正後(基準65万円・2026年4月〜):合計56万円は65万円以下のため支給停止なし → 全額支給10万円
このように、2026年4月の基準額引き上げで、働きながらでも年金を全額受け取れる方が増えます。定年再雇用で「働きながら年金」を選ぶ方は、給与水準と年金額のバランスで支給停止額が変わるため、事前にシミュレーションしておくことが重要です。
老齢厚生年金の請求手続きと給与計算・人事担当者の実務対応
ここからは経営者・人事労務担当者の方向けの実務的な視点でお話しします。老齢厚生年金は「個人の問題」と思われがちですが、会社のサポートで従業員の安心感は大きく変わります。
退職予定者・60〜65歳社員への手続き案内
受給年齢に到達する3ヶ月前に、日本年金機構から「年金請求書」が本人宛てに送付されます。退職や定年再雇用のタイミングで、人事担当者から「請求書が届いたら必ず提出してください」と案内するだけで、未提出による未請求トラブルを防げます。
特別支給の対象世代がまだ残っている会社では、男性は昭和36年4月1日以前生まれ、女性は昭和41年4月1日以前生まれの社員に個別に声かけするのが望ましい運用です。時効5年で消滅するため、社内ルールに組み込むことをおすすめします。
ねんきん定期便を活用したライフプラン支援
50歳以上の社員には、加入記録に加えて「年金見込額」が記載されたねんきん定期便が送付されます。私の顧問先の中には、「退職5年前面談」として50代後半社員と人事が個別に話し合う機会を設けている会社もあり、「自分の年金額を初めて知った」という社員からの感謝の声が多く聞かれます。
給与計算と社会保険手続きの実務対応
老齢厚生年金は、現役時代の標準報酬月額がそのまま将来の受給額に反映されます。給与計算で残業代・通勤手当の計上漏れが続くと、社員の将来年金に影響が出るケースもあるため、月変・算定基礎の届出を正確に行うことが社員のためにもなります。
HR BrEdge社会保険労務士法人では、給与計算サポート顧問として、社会保険手続き・在職老齢年金のシミュレーション・年金教育研修まで一貫してサポートしています。「人事担当者が一人しかおらず、年金まで手が回らない」という会社様ほど、お気軽にご相談ください。確定拠出年金など3階部分の最適化も含めた退職金設計のご提案も可能です。
渡辺 俊一
老齢厚生年金に関するよくある質問(FAQ)
Q. 老齢厚生年金はだいたいいくらもらえますか?
渡辺 俊一
Q. 「厚生年金」と「老齢厚生年金」は何が違うのですか?
渡辺 俊一
Q. 国民年金しか加入歴がないと老齢厚生年金はもらえませんか?
渡辺 俊一
Q. 特別支給の老齢厚生年金、自分が対象か知るにはどうすればいい?
渡辺 俊一
Q. 年金をもらいながら働くと、いくら稼ぐと減額されますか?
渡辺 俊一
この記事の執筆者
![]() 渡辺 俊一 (わたなべ としかず) |
HR BrEdge社会保険労務士法人 代表 1977年兵庫県神戸市生まれ。関西学院大学法学部法律学科卒業後、日本マクドナルド株式会社に入社。2005年社会保険労務士試験に合格し、2007年に渡辺社会保険労務士事務所を開設。2016年法人化し、2025年5月に「HR BrEdge社会保険労務士法人」へ社名変更。 顧問先500社超・実績970社以上を誇り、「会社の財産は人・人・人である」を信念に、従業員・お客様・社会の「三方良し」の経営支援を実践。給与計算・社会保険手続き・就業規則・助成金申請から、IPO・M&Aに向けた労務監査まで幅広く対応。 著書『頂点をめざす!~経営者のパートナーとして歩む社労士の物語~』はAmazon「社会保険労務士の資格・検定」部門で1位を獲得。
【所属】全国社会保険労務士連合会/大阪府社会保険労務士会/一般社団法人EO Osaka |





