こんにちは。HR BrEdge社会保険労務士法人代表、特定社会保険労務士の渡辺俊一(わたなべとしかず)です。
「60歳から特別支給の老齢厚生年金がもらえると聞いたけど、いくらもらえるの?」「働きながら受給すると年金が減額されるって本当?」「2026年に制度が変わると聞いたけど、どう変わるの?」——こんなお悩みで検索された方、多いのではないでしょうか。
特別支給の老齢厚生年金は、制度移行期の経過措置として60歳〜64歳に支給される年金です。しかし制度が複雑で、「請求しないともらえない」「働くと減額される」「失業給付とは併給できない」など、知らないと数十万円単位で損する落とし穴がいくつもあります。
そして何より重要なのが、令和8年(2026年)4月からの在職老齢年金制度の改正です。これまで支給停止されていた人の多くが、満額受給できるようになる大改正。この記事では、制度の基本から2026年改正、金額シミュレーション、減額を防ぐ対策、企業が知っておくべき実務まで、顧問先500社超の社労士法人の視点で徹底解説します。
特別支給の老齢厚生年金とは?【2026年最新】対象者と制度の全体像
まずは制度の骨格から整理します。対象になる方・ならない方、そしていつまで続く制度なのかをクリアにしましょう。

60歳〜64歳に支給される経過措置の年金
老齢厚生年金は本来65歳からの支給が原則ですが、過去の制度改正(昭和60年・平成6年)で支給開始年齢が段階的に60歳→65歳へ引き上げられたため、その経過措置として60歳〜64歳の間に支給されるのが「特別支給の老齢厚生年金」です。
対象者:男性は昭和36年4月1日まで・女性は昭和41年4月1日までの生まれ
対象は厳格に生年月日で決まります。男性は昭和36年4月1日以前、女性は昭和41年4月1日以前の生まれの方が対象です。女性は男性より5歳遅れで引き上げが進んだため、対象期間が5年長い点が特徴です。
2026年(令和8年)時点で対象となるのは、主に60代半ば〜後半の男性と、60〜64歳の女性。女性は現在も新たに受給開始年齢を迎える方が続いているため、現役世代の人事担当者・女性従業員にとって実務知識として必須です。
報酬比例部分と定額部分の2つで構成される
支給額は「報酬比例部分」(厚生年金加入中の給与・賞与に比例)と「定額部分」(加入月数に比例)の2つで構成されます。ただし現在の対象者には定額部分は支給されず、報酬比例部分のみが支給されるのが通常です。
制度の廃止スケジュール
男性は昭和36年4月2日以降生まれ、女性は昭和41年4月2日以降生まれが対象外となり、すべて65歳からの受取りになります。つまりこの制度は時限的なもので、女性で対象となるのは2030年頃までに64歳を迎える方が最後です。
【金額シミュレーション】特別支給の老齢厚生年金はいくらもらえる?
「結局いくらもらえるの?」が最も気になるところだと思います。年収と加入期間に基づく概算をまとめました。

報酬比例部分の計算式
報酬比例部分の基本的な計算式は次のとおりです。
報酬比例部分(年額)≒ 平均標準報酬額 × 5.481/1000 × 厚生年金加入月数
(※平成15年3月以前は平均標準報酬月額×7.125/1000で別途計算され、合算されます)
年収・加入期間別の月額イメージ
上の表のとおり、年収400〜500万円・加入期間35〜38年の方で月額6〜10万円程度、年収700万円・40年加入で月額12〜13万円程度が一般的な水準です。
平均的な会社員のイメージとしては「60歳以降も働きつつ、月5〜10万円の年金が支給される」ケースが大多数。定年退職後の家計を下支えする大切な収入源になります。
ねんきん定期便・ねんきんネットで確認
ご自身の正確な受給見込額は、毎年誕生月に届くねんきん定期便、またはねんきんネット(日本年金機構の個人サイト)で確認できます。59歳で届く「ねんきん定期便」には「60歳以降の見込額」が記載されていますので、人事担当者の方は対象となる従業員に案内をしてあげてください。
特別支給の老齢厚生年金が減額・支給停止される5つの理由
特別支給の年金は、条件を満たすと減額または全額停止されます。主な5つのケースを整理しておきましょう。
理由1:在職老齢年金による減額(最頻出ケース)
働きながら厚生年金に加入していて、「基本月額」+「総報酬月額相当額」が支給停止調整額(2025年度は51万円)を超えると、超えた分の半額が年金から減額されます。これが「在職老齢年金」と呼ばれる仕組みで、再雇用者の多くが直面する減額要因です。
理由2:失業給付(基本手当)との併給調整
雇用保険の基本手当(失業給付)を受給している間は、特別支給の老齢厚生年金は全額停止されます。どちらが得か個別比較が必要で、一般的には基本手当の方が日額換算で高いため、多くの方は「先に失業給付を受け、終了後に年金」という順番を選びます。
理由3:高年齢雇用継続給付との併給調整
60歳以降も継続雇用されて給与が60歳時点の75%未満になった場合に支給される「高年齢雇用継続給付」を受給すると、標準報酬月額の最大6%相当の年金が減額されます(最新の法令では段階的に縮小・廃止の方向)。
理由4:請求忘れ(5年時効)
特別支給の老齢厚生年金は請求しないともらえません。しかも請求には5年の時効があり、5年を超えると過去分が消滅します。誕生月の3ヶ月前に日本年金機構から「年金請求書」が届きますので、必ず手続きをしてください。
理由5:標準報酬月額が高く算定されている
再雇用時に給与体系を再設計していないと、現役時代と同じ高い標準報酬月額のままになり、在職老齢年金の計算で減額される要因になります。賞与も含めた「総報酬月額相当額」で判定される点に注意が必要です。
【2026年改正】在職老齢年金の支給停止基準が51万円→62万円へ
ここが本記事最大の差別化ポイントです。令和8年(2026年)4月から、在職老齢年金の支給停止基準が11万円引き上げられます。

令和7年度51万円→令和8年4月から62万円へ
在職老齢年金の支給停止調整額は、賃金水準の上昇に合わせて毎年度見直されます。令和7年度は51万円でしたが、令和8年4月から62万円に大きく引き上げられる予定です。これにより「基本月額+総報酬月額相当額が62万円以下」であれば、働きながらでも年金は減額されません。
どんな人が満額受給できるようになる?
例えば月収40万円・年金月額10万円の方(合計50万円)は、令和7年度でも減額なしでしたが、月収55万円・年金月額13万円(合計68万円)の方は令和7年度では月8.5万円の減額が発生していました。令和8年4月以降は減額幅が月3万円程度まで縮小するため、年間約66万円の手取り増となります。
減額ラインが大きく上がるため給与設計の余地も拡大
これは個人だけでなく企業の高年齢者再雇用の賃金設計にも大きなインパクトがあります。これまで「年金減額を避けるため月収を抑えている」運用だった企業は、令和8年度以降は報酬水準を見直して戦力として活用する余地が広がります。
渡辺 俊一
特別支給の老齢厚生年金の減額を防ぐ4つの対策
2026年改正で減額ラインは大きく上がりますが、それでも62万円を超える高収入の方や、失業給付・高年齢雇用継続給付との併給がある方は対策が必要です。

対策1:給与と年金の合計を62万円以内に抑える(令和8年4月〜)
最も基本的な対策は、「基本月額(年金月額)+総報酬月額相当額(月給+直近1年の賞与÷12)」を62万円以内に設計することです。月収55万円+賞与120万円の方なら、総報酬月額相当額は月収55万円+10万円=65万円となり、年金10万円と合わせて75万円。この場合は月6.5万円の減額が発生します。
対策2:賞与比率を見直して月額ベースを調整
月給と賞与のバランスを見直すことで、在職老齢年金の判定値を下げられます。ただし総報酬月額相当額は賞与も加味されるため、「月給→賞与への単純な振替」では在職老齢年金の減額回避になりません。標準報酬月額自体を下げる給与設計が必要です。
対策3:失業給付・高年齢雇用継続給付との受給順序を検討
退職→失業給付→再雇用→年金という流れを計画的に設計することで、総受給額を最大化できます。一般的には「失業給付を先に受けてから年金」が手取りで有利なケースが多いですが、在職老齢年金改正後は個別の試算が重要です。
対策4:再雇用時は賃金設計を事前に社労士に相談
60歳定年+再雇用の賃金設計は、年金受給額に直接響きます。賃金を下げると「高年齢雇用継続給付」「在職老齢年金」「所得税・住民税・社会保険料」が複雑に絡み合うため、個別シミュレーションなしに決めると年間数十万円の損失が発生することがあります。
特別支給の老齢厚生年金のデメリットとメリット
「特別支給は受け取らない方がいい」という声もありますが、実態としては請求して受け取る一択です。理由を整理します。
デメリット1:繰下げ受給ができない
65歳以降の老齢厚生年金は、繰下げ受給で最大84%増額できますが、特別支給の老齢厚生年金は繰下げができません。請求しないと5年時効で消滅するだけで、増えることはありません。
デメリット2:税金・社会保険料の負担が増える
年金は雑所得として所得税・住民税の課税対象になり、健康保険料の算定にも含まれます。ただし公的年金等控除が適用されるため、年120万円までは非課税(65歳未満)です。
メリット:65歳からの本来年金には影響しない
特別支給を受け取っても65歳以降の本来の老齢厚生年金は減額されません。これは繰上げ受給(65歳からの年金を早取りすると永続減額)と大きく違うポイント。つまり請求すれば確実にプラスになる制度です。
渡辺 俊一
63歳から特別支給の老齢厚生年金をもらう女性のケース
女性は男性より5年遅れで受給開始年齢の引き上げが進んでいるため、現在も対象となる方が多いのが特徴です。
昭和38年4月2日〜昭和40年4月1日生まれの女性は63歳から
2026年時点で62〜64歳の女性のうち、昭和38年4月2日〜昭和40年4月1日生まれの方は63歳から報酬比例部分を受給できます。誕生月の3ヶ月前に年金請求書が届きますので、忘れずに手続きを。
昭和40年4月2日〜昭和41年4月1日生まれの女性は64歳から
こちらは64歳からの開始。そして昭和41年4月2日以降生まれの女性は対象外で、65歳からの本来の老齢厚生年金のみの受給となります。
申請手続き・支給日・必要書類
特別支給の老齢厚生年金は「請求主義」です。何もしないと支給されない点だけは絶対に覚えておきましょう。
受給開始年齢の3ヶ月前に「年金請求書」が届く
日本年金機構から受給開始年齢の3ヶ月前に「年金請求書(事前送付用)」が送付されます。同封の記入例に沿って記入し、必要書類と一緒に年金事務所または街角の年金相談センターに提出します。
必要書類と提出先
①年金請求書②戸籍謄本(受給開始日以降に交付されたもの)③住民票④本人の年金手帳(または基礎年金番号通知書)⑤本人名義の通帳のコピー⑥配偶者がいる場合は所得証明書など。郵送または窓口持参どちらでも可能です。
支給日は偶数月の15日
年金は原則偶数月(2・4・6・8・10・12月)の15日に前2ヶ月分がまとめて支給されます。15日が土日祝の場合は直前の平日に支給されます。初回の支給は請求から3〜4ヶ月後が目安です。
企業の人事・総務が知っておくべき高年齢雇用と年金の連携
ここからは企業視点の実務を社労士目線で解説します。高年齢者雇用安定法(65歳までの雇用確保義務+70歳までの就業確保努力義務)と年金制度は密接に連動しており、知らないと企業も従業員も損する仕組みになっています。
就業規則に高年齢者の再雇用条項を整備
定年後の再雇用の賃金体系・労働時間・契約期間を就業規則に明記することで、従業員と企業双方の誤解を防ぎます。賃金を現役時代の60〜80%に設定するのが一般的ですが、2026年の在職老齢年金改正を踏まえ、令和8年度以降は賃金水準を見直す余地があります。
65歳超雇用推進助成金の活用
65歳以上への定年引き上げや、高年齢者向けの雇用管理制度を整備した企業には「65歳超雇用推進助成金」が支給されます。コースによって15〜160万円の受給が可能で、高年齢者雇用の制度整備コストを大きく下げられます。
年金と給与・助成金の総合設計が社労士の役割
在職老齢年金・高年齢雇用継続給付・65歳超雇用推進助成金・老齢年金本体——これらを個別に見るのではなく「高年齢雇用の総合パッケージ」として設計できるかで、企業と従業員双方の満足度が大きく変わります。当事務所でも2026年改正対応の個別相談を多数お受けしています。
渡辺 俊一
特別支給の老齢厚生年金に関するよくある質問(FAQ)
Q. 特別支給の老齢厚生年金はいくらもらえますか?
渡辺 俊一
Q. 働きながら受給すると必ず減額されますか?
渡辺 俊一
Q. 2026年から本当に62万円まで減額されなくなるのですか?
渡辺 俊一
Q. 特別支給の老齢厚生年金を受け取らない方がいい人はいますか?
渡辺 俊一
Q. 女性は63歳から受給できると聞きましたが本当ですか?
渡辺 俊一
Q. 特別支給の老齢厚生年金は申請しないともらえませんか?
渡辺 俊一
まとめ:2026年改正を踏まえた給与設計で特別支給の年金を最大化する
特別支給の老齢厚生年金は、対象となる方にとって確実にプラスになる制度です。繰下げできず請求しないと5年時効で消滅するため、対象者は必ず手続きを行ってください。
そして2026年4月からの在職老齢年金の支給停止基準が51万円→62万円へ引き上げは、多くの再雇用者にとって朗報です。企業側も賃金設計を見直す絶好のタイミングで、戦力となる高年齢者を減額リスクなしで活用できる余地が広がります。
HR BrEdge社会保険労務士法人では、高年齢者再雇用の賃金設計・年金手続き・就業規則整備・助成金申請まで、総合的にサポートしています。「2026年改正にあわせて賃金テーブルを見直したい」「従業員の年金と給与の最適化を検討したい」といったご相談は、お気軽にお問い合わせください。
この記事の執筆者
![]() 渡辺 俊一 (わたなべ としかず) |
HR BrEdge社会保険労務士法人 代表 1977年兵庫県神戸市生まれ。関西学院大学法学部法律学科卒業後、日本マクドナルド株式会社に入社。2005年社会保険労務士試験に合格し、2007年に渡辺社会保険労務士事務所を開設。2016年法人化し、2025年5月に「HR BrEdge社会保険労務士法人」へ社名変更。 顧問先500社超・実績970社以上を誇り、「会社の財産は人・人・人である」を信念に、従業員・お客様・社会の「三方良し」の経営支援を実践。給与計算・社会保険手続き・就業規則・助成金申請から、IPO・M&Aに向けた労務監査まで幅広く対応。 著書『頂点をめざす!~経営者のパートナーとして歩む社労士の物語~』はAmazon「社会保険労務士の資格・検定」部門で1位を獲得。
【所属】全国社会保険労務士連合会/大阪府社会保険労務士会/一般社団法人EO Osaka |





