こんにちは。HR BrEdge社会保険労務士法人代表、特定社会保険労務士の渡辺俊一(わたなべとしかず)です。
「うつ病で休職することになったが、給与がゼロなのに社会保険料の請求書が届いた」「月5万円を超える請求で生活費を圧迫している」「このままだと生活費が足りなくなる」——こうしたご相談は、休職者ご本人からもご家族からも、毎月のように寄せられます。
休職中の社会保険料の問題は、実は制度の仕組みを正しく理解しているだけで不安が半分に減ることが多い分野です。ネット上には「厚生年金は免除制度がない」「健康保険は介護休業で免除される」といった誤った情報もあふれており、正しい知識で整理することが何より大切です。
この記事では、休職中の社会保険料の基本ルール・月収別の具体的な金額・3つの支払い方法・払えない時の対処法・傷病手当金の活用法・企業側の実務対応まで、顧問先500社超の実務経験を持つ社労士が、休職者ご本人にも経営者にもわかりやすく解説します。
休職中でも社会保険料はかかる|基本ルールを社労士が解説
まず最初に押さえておきたいのが、「休職中でも社会保険に加入し続けている」という大前提です。これを理解しておくと、なぜ保険料がかかるのかという仕組みが自然とわかってきます。

休職中は社会保険の資格が継続する|退職と違うポイント
休職と退職は、見た目は似ていても法的には全く別物です。
休職:会社に在籍したまま、一時的に労働義務を免除されている状態
退職:会社との雇用関係そのものが終了した状態
休職は会社との雇用契約が続いているため、社会保険(健康保険・厚生年金)の被保険者資格もそのまま維持されます。結果として、医療費の3割負担や将来の年金受給権、そして何より傷病手当金の受給権を守ることができます。
「だったら退職したほうが負担が軽くなるのでは?」と考える方もいますが、退職すると国民健康保険・国民年金に切り替わり、傷病手当金の受給権も失うケースがあるため、安易に選択するのは危険です。休職中の資格継続には、それだけの保障的価値があるとお考えください。
休職中の社会保険料|支払い義務がある保険・ない保険
休職中の社会保険料を正確に把握するには、「何がかかって、何はかからないのか」を保険の種類別に整理する必要があります。
| 保険の種類 | 休職中(無給)の扱い | 備考 |
| 健康保険料 | 支払い義務あり | 標準報酬月額ベースで維持 |
| 厚生年金保険料 | 支払い義務あり | 標準報酬月額ベースで維持 |
| 介護保険料(40-64歳) | 支払い義務あり | 健康保険料と同様に発生 |
| 雇用保険料 | 発生しない | 給与が支払われないため |
| 労災保険料 | 個人負担なし | もともと全額会社負担 |
労使折半は休職中も維持|「全額負担」と誤解されがちなポイント
「休職中は社会保険料が全額自己負担になる」とネット上でよく見かけますが、これは誤解です。
正しくは次の通りです。
1. 労使折半の原則は休職中も維持される(会社半分・従業員半分)
2. 従業員が支払うのはあくまで自分の負担分のみ
3. 変わるのは「徴収方法」であって「負担割合」ではない
つまり、給与天引きが使えない分、「本人が直接払う」「会社が立て替える」等の方法を取るだけで、金額は労使折半のまま、というのが実態です。
渡辺 俊一
「休職」と「休業(産休・育休)」の違い|免除制度の対象外
似た言葉で混乱しやすいのが「休職」と「休業」です。制度上の違いを押さえましょう。
休職:会社の就業規則などに基づく会社独自の制度。私傷病・メンタル不調・自己都合など
休業(法定休業):法律で定められた制度。産前産後休業・育児休業・介護休業など
このうち、社会保険料の免除制度があるのは「産前産後休業」と「育児休業」のみ。介護休業・私傷病休職・自己都合休職はすべて免除の対象外です。
「育休と同じで免除されるはず」と思って請求書を見ると、金額に驚いてしまうケースがあります。ここは制度上のしかたない部分なので、正しく認識しておきましょう。
休職中の社会保険料はいくら?|標準報酬月額で決まる金額の計算方法
休職中の社会保険料の金額は、休職前の給与水準で決まる「標準報酬月額」を基準に計算されます。無給になっても金額は減らない、というのが最大のポイントです。

休職中の社会保険料は標準報酬月額ベース|減額されない理由
なぜ無給なのに、休職前の給与を基準とした保険料がかかるのか。ここは多くの方が疑問に感じるポイントです。
標準報酬月額は、4月・5月・6月の3ヶ月間の給与平均をもとに毎年1回改定され、その年の9月から翌年8月まで適用される仕組みです。これを「定時決定(算定基礎届)」と呼びます。
休職は、この定時決定での「報酬改定事由」に含まれていません。つまり休職を理由に標準報酬月額を引き下げることはできず、休職前の金額が継続する、という制度設計になっています。
これは社会保険制度全体の公平性・安定性を保つためのルールで、短期的な収入変動で保険料が上下しないようにする趣旨があります。
月収別・休職中の社会保険料はいくらかシミュレーション
実際にいくらかかるのか、協会けんぽ(40歳未満・大阪府2026年度保険料率想定)でシミュレーションしてみます。
月収20万円のケース(標準報酬月額20万円)
健康保険料(従業員負担):約10,000円
厚生年金保険料(従業員負担):約18,300円
合計:月額 約28,300円
月収30万円のケース(標準報酬月額30万円)
健康保険料(従業員負担):約15,000円
厚生年金保険料(従業員負担):約27,450円
合計:月額 約42,450円
月収40万円のケース(標準報酬月額41万円)
健康保険料(従業員負担):約20,500円
厚生年金保険料(従業員負担):約37,515円
合計:月額 約58,015円
40歳以上は介護保険料が加算され、月収30万円のケースで月1,500円程度増える計算になります。具体的な料率は毎年改定されるため、最新の料率は協会けんぽまたは加入する健康保険組合でご確認ください。
賞与が支給された場合の休職中社会保険料の取り扱い
休職中に賞与が支給されることはまれですが、休職直前の賞与については、通常と同じく「標準賞与額(賞与の総額から1,000円未満を切り捨てた額)」に保険料率を乗じた金額が徴収されます。
賞与月は通常月に比べて保険料負担が大きくなるため、休職開始タイミングの資金繰りには注意が必要です。
住民税も合わせるとこれぐらいかかる|忘れがちな大きな負担
社会保険料だけ見ていると見落としがちですが、休職中は住民税も通常通り支払い義務があります。
住民税は「前年の所得」をベースに計算されるため、休職初年度は特に負担が重くなりがちです。
月収30万円(年収360万円)のケース想定
社会保険料:約42,450円/月
住民税(年間約15万円 ÷ 12):約12,500円/月
合計:月額 約55,000円前後
この「約5.5万円」が毎月、無給のまま請求される——これが休職中の現実です。
渡辺 俊一
休職中の社会保険料はどうやって払う?|3つの支払い方法
休職中は給与天引きができなくなるため、社会保険料の徴収方法を会社と事前に決めておく必要があります。主な方法は3つあります。

支払い方法1:本人が会社指定口座に直接振込
最もオーソドックスな方法です。給与日などのタイミングで、会社から「○○円振り込んでください」と請求書や通知が届き、指定口座に振り込む流れです。
メリット:会社・本人ともに手続きがシンプル。毎月の支払い額が明確で管理しやすい。
デメリット:本人の銀行残高管理が必須。振込手数料がかかる場合がある。
支払い方法2:会社が立替えて復職後に精算
給与天引きができない代わりに、会社が一時的に本人負担分を立て替え、復職後に給与から分割控除する方式です。
メリット:休職中の手出しがない。療養に専念できる。
デメリット:復職後の手取りが減る。復職できなかった場合、会社側に回収リスクが発生。労使協定と本人の書面同意が必要(労基法24条)。
支払い方法3:傷病手当金からの控除|2023年以降の重要な注意点
傷病手当金を会社が代理受領し、そこから社会保険料を差し引いて残額を本人に振り込む方式です。
重要な注意点:2023年1月の協会けんぽ制度改正により、傷病手当金の「受取代理人欄」が廃止され、現在は原則として被保険者本人口座への直接振込となっています。
健康保険組合によっては独自の取り扱いがありますが、協会けんぽ加入の場合は、この方法は事実上使えないと考えておいたほうが現実的です。
給与からの一方的控除は違法|労基法24条の全額払い原則
休職から復職した後、会社が「休職中の立替分をまとめて天引きします」と一方的に控除することは、労働基準法24条の全額払い原則に違反する可能性があります。
合法的に控除するためには、次の3点が揃っている必要があります。
1. 労使協定の締結(就業規則に明記があってもこれは別途必要)
2. 本人の書面による同意
3. 控除金額・控除期間を事前に明示
この3点セットが揃っていない控除は、事後トラブルになった場合に会社側が敗訴するリスクが高いのでご注意ください。
渡辺 俊一
休職中の社会保険料が払えない場合の対処法5選
休職が長引いたり、傷病手当金だけでは生活費が足りなくなったりすると、社会保険料の支払いが厳しくなることがあります。そんな時の対処法を5つご紹介します。
① 会社への分割納付の相談
最初に検討したいのが、会社への分割納付の相談です。
社会保険料は月単位で必ず発生するため厳密な「支払い猶予」は難しいですが、会社の経理部門と話し合い、「今月は2万円、来月は5万円」といった柔軟な支払いに応じてくれるケースもあります。
まずは早めに、正直に、状況を伝えることが大切です。「払えないから連絡しない」が最悪の選択です。
② 傷病手当金で社会保険料をカバー
病気やケガで働けない場合、傷病手当金を申請すれば、休職前の給与の約2/3が最長1年6ヶ月支給されます。この給付から社会保険料を支払う運用が、実務上最も多いパターンです。
傷病手当金の詳細は次の章で解説します。
③ 休職中に家族の扶養に入れるか?
「休職中に家族の扶養に入れるか?」というご質問もよくいただきます。結論から言うと、在職したままの休職では、社会保険の扶養に入ることはできません。
理由は次の通りです。
1. 会社に在籍している以上、本人が社会保険の被保険者として継続加入している
2. 被保険者が同時に他者の被扶養者になることは制度上できない
3. 扶養に入るには、退職して被保険者資格を失う必要がある
ただし、退職して被保険者資格を失った後であれば、年収見込みなどの要件を満たせば家族の扶養に入ることができます。
④ 生活福祉資金貸付など公的支援の活用
社会福祉協議会による「生活福祉資金貸付制度」は、低所得世帯や失業者・療養中の方を対象とした貸付制度です。
総合支援資金:生活支援費、住宅入居費
福祉資金:福祉費、緊急小口資金
お住まいの市区町村の社会福祉協議会にご相談ください。無利子または低利子で借りられるケースもあります。
⑤ 休職中に社会保険料を払わないとどうなる?未納リスク
最悪なのが「払わないまま放置する」選択です。具体的なリスクは次の通りです。
1. 会社からの督促
2. 延滞金の発生
3. 復職後の給与から一気に徴収される
4. 会社との信頼関係悪化
5. 最終的には保険資格喪失の手続きを取られる可能性
「払えない」ことより、「連絡しない・相談しない」ことのほうが致命的になります。状況が厳しいときほど、早めに会社・専門家に相談してください。
傷病手当金の申請方法・金額・支給期間|社会保険料負担を補う制度
休職中の生活費と社会保険料負担を実質的に支えてくれるのが、健康保険の「傷病手当金」です。制度の仕組み・金額・申請方法を正確に押さえておきましょう。
傷病手当金の支給額の計算方法
傷病手当金の1日あたりの支給額は、次の式で計算されます。
傷病手当金日額 = 支給開始日の属する月以前の直近12ヶ月の各月の標準報酬月額の平均額 ÷ 30 × 2/3
例として、月収30万円のAさんのケースで計算してみます。
1. 標準報酬月額:30万円
2. 30万円 ÷ 30 = 10,000円(日額)
3. 10,000円 × 2/3 = 6,667円(1日の傷病手当金)
4. 30日分:約20万円/月
月収の約2/3が補填されるイメージです。
傷病手当金の支給期間は最長1年6ヶ月(通算)
傷病手当金の支給期間は、支給を始めた日から通算して1年6ヶ月です。
2022年1月の健康保険法改正により、以前の「連続1年6ヶ月」から「通算1年6ヶ月」に変更されました。これにより、途中で復職した期間があっても、その期間を除いて1年6ヶ月分の給付が受けられるようになっています。
傷病手当金の4つの支給要件
次の4つをすべて満たす必要があります。
1. 業務外の事由による傷病:仕事中のケガ・病気は労災の対象
2. 療養のための労務不能:医師の意見書で判定
3. 連続3日を含む4日以上の休業:最初の3日は「待期期間」でノーカウント
4. 休業期間中に給与の支払いがない:給与が一部でも出ていると、差額のみ支給
傷病手当金の申請の流れと必要書類
申請は原則として会社経由で健康保険組合や協会けんぽに行います。
必要書類:傷病手当金支給申請書(被保険者記入欄・事業主記入欄・療養担当者記入欄あり)、健康保険被保険者証の記号番号
申請は1ヶ月単位・数ヶ月まとめてのいずれも可能。支給まで2週間〜1ヶ月程度かかるのが通常です。
休職中でも忘れがちな住民税・所得税の取り扱い
休職中の「税金」の扱いについても押さえておきましょう。社会保険料と合わせて整理することで、休職中の総支出が見えるようになります。
住民税は前年所得ベースで必ずかかる|休職中の最大の落とし穴
前述の通り、住民税は前年の所得を基準に計算されます。
休職初年度(今年)に支払う住民税は「去年の所得」で計算されているため、去年バリバリ働いていた方ほど、休職中の住民税負担が大きくなります。
通常の特別徴収(給与天引き)から普通徴収(自分で支払う)への切替が必要になり、市区町村から年4回に分けて納付書が届きます。
所得税は無給なら発生しない
所得税は「実際に支払われた給与」にかかる税金のため、休職中で無給の場合は発生しません。年末調整で過不足が精算され、払いすぎていた所得税が還付されることもあります。
雇用保険料・労災保険料の扱い
雇用保険料:給与が支払われないため、休職中は発生しない
労災保険料:もともと全額会社負担のため、個人負担はゼロ
住民税が払えない場合の減免・猶予制度
住民税も社会保険料と同様、払えないときの対処法があります。
減免制度:特別な事情(失業・病気等)がある場合、市区町村の判断で減額・免除
徴収猶予:最長1年程度、分割納付や支払い時期の繰延べが可能
お住まいの市区町村の住民税担当課にご相談ください。
【経営者・人事担当者向け】休職中の社会保険料を徴収する実務のポイント
ここからは、従業員を休職させる側である経営者・人事担当者の方向けに、実務のポイントをまとめます。事前の準備がトラブル防止の9割を占めます。
就業規則への明記が必須
休職中の社会保険料の徴収方法を、就業規則または休職規程に明記しておくことが出発点です。
記載すべき項目:
1. 休職中の社会保険料の取り扱い(本人負担分の徴収継続)
2. 徴収方法(会社指定口座への振込、会社立替、傷病手当金からの控除のいずれを採用するか)
3. 支払い期日と振込先口座
4. 未払い時の対応
社会保険料の徴収方法を事前に書面合意
就業規則だけでなく、休職開始時点で「社会保険料納付に関する覚書」を本人と取り交わすことをおすすめします。
合意事項:毎月の納付額/納付期日と方法/会社立替を選択する場合の精算方法/一部または全部を給与等から控除する場合の労使協定・本人同意
立替時の回収リスクと労使協定の整備
会社立替方式を採用する場合、最大のリスクは「本人が復職せず退職した場合」の回収不能です。
対策:就業規則で「退職時に未払分を一括精算する」旨を明記/必要に応じて身元保証人との連絡/長期化する前に定期的に本人と意思確認
労基法24条違反を避ける運用
繰り返しになりますが、復職後の給与から一方的に立替分を控除することは、労基法24条の全額払い原則違反となる可能性があります。合法的な控除には、労使協定の締結・本人の書面同意・控除金額/期間の事前明示の3点セットが必要です。
弊社でも就業規則の改定や労使協定の整備のご相談を多数お受けしていますので、運用に不安があればお気軽にご相談ください。
休職中の社会保険料に関するよくあるご質問(FAQ)
私の事務所に寄せられるご質問の中から、特に多いものを5つピックアップしてお答えします。
Q. 休職中の社会保険料は全額負担になるって本当ですか?
渡辺 俊一
Q. 休職中に社会保険料を払わなかったらどうなりますか?
渡辺 俊一
Q. 自己都合(メンタル不調等)の休職でも社会保険料はかかりますか?
渡辺 俊一
Q. 休職中の社会保険料を扶養に入って免除することはできますか?
渡辺 俊一
Q. 傷病手当金から社会保険料を天引きしてもらうことは今でもできますか?
渡辺 俊一
休職中の社会保険料でお困りの方はHR BrEdge社会保険労務士法人にご相談ください
休職中の社会保険料は、制度の仕組みを知っているだけで不安が半分に減る分野です。一方で、実務では誤解や運用ミスによるトラブルも多く、休職者ご本人にも企業側にもリスクが生じやすい領域でもあります。
「休職者の社会保険料徴収のルールを整備したい」「就業規則・休職規程を見直したい」「休職中の従業員への説明方法に悩んでいる」——こうしたお悩みがあれば、HR BrEdge社会保険労務士法人までお気軽にご相談ください。
私たちは顧問先500社超・実績970社以上の経験から、業種・規模・状況に応じた最適なご提案をいたします。休職者ご本人からのお問い合わせも、企業の人事労務担当者からのご相談も、どちらも対応しておりますので、お一人で抱え込まず、まずはお気軽にお声がけください。
この記事の執筆者
![]() 渡辺 俊一 (わたなべ としかず) |
HR BrEdge社会保険労務士法人 代表 1977年兵庫県神戸市生まれ。関西学院大学法学部法律学科卒業後、日本マクドナルド株式会社に入社。2005年社会保険労務士試験に合格し、2007年に渡辺社会保険労務士事務所を開設。2016年法人化し、2025年5月に「HR BrEdge社会保険労務士法人」へ社名変更。 顧問先500社超・実績970社以上を誇り、「会社の財産は人・人・人である」を信念に、従業員・お客様・社会の「三方良し」の経営支援を実践。給与計算・社会保険手続き・就業規則・助成金申請から、IPO・M&Aに向けた労務監査まで幅広く対応。 著書『頂点をめざす!~経営者のパートナーとして歩む社労士の物語~』はAmazon「社会保険労務士の資格・検定」部門で1位を獲得。 【所属】全国社会保険労務士連合会/大阪府社会保険労務士会/一般社団法人EO Osaka |





