こんにちは。HR BrEdge社会保険労務士法人代表、特定社会保険労務士の渡辺俊一(わたなべとしかず)です。
「時間外手当の計算方法、本当にこれで合っているのか不安…」というご相談を、私の顧問先(500社超)からも毎月のようにいただきます。一見シンプルに見える時間外手当の計算は、実は基礎賃金の算出・割増率の組み合わせ・端数処理・固定残業代との調整など、つまずきポイントが多い分野です。
しかも2023年4月からは中小企業も「月60時間超の時間外労働は50%割増」が義務化され、ここに対応できていない計算方法のままだと、知らないうちに未払い残業代が積み上がっているケースもあります。
この記事では、時間外手当の計算方法を「4ステップ」で体系的に整理したうえで、具体的な計算例・端数処理ルール・固定残業代との関係・実務でよくあるミスまで、社労士の視点から徹底解説します。読み終えたあとに、自社の給与計算が正しいかを必ずチェックできる構成にしました。
時間外手当の計算方法でつまずきやすい3つの悩み
「時間外手当の計算方法」を調べる方からは、ざっくり次の3つの悩みをよく伺います。
・「そもそも、時間外手当はどの時間から発生する?所定労働時間と法定労働時間って何が違うの?」
・「割増率が25%・35%・50%と複数あって、深夜や休日が重なるとどう組み合わせれば正解か分からない」
・「うちは固定残業代を払っているけど、本当に追加の時間外手当を払わなくていいのか不安」
この3つは、まさに労働基準法上の「時間外手当」の本質に関わる悩みです。これらを順番にクリアにしていけば、月給制でもパートでも、フレックスでも管理職でも、自社の計算に自信が持てるようになります。
「時間外手当」とは?残業手当・割増賃金との違いと法的定義
計算方法に入る前に、用語の整理をしておきましょう。ここを曖昧にしたままだと、せっかく計算式を覚えても判断を間違えます。
時間外手当・残業手当・割増賃金は同じ意味?混同を整理
結論からいうと、「時間外手当」「残業手当」「時間外勤務手当」はほぼ同じ意味で使われています。いずれも法定労働時間を超えて働いた分に対して支払う割増賃金を指す言葉です。一方、「割増賃金」はもう少し広い概念で、時間外手当に加えて深夜手当(22時〜翌5時)・休日手当(法定休日労働)も含みます。
会社や就業規則によっては「残業手当」と呼んでいたり、「時間外勤務手当」と呼んでいたりしますが、法律上の根拠は労働基準法第37条に基づく割増賃金の支払い義務という点で同じです。本記事では原則として「時間外手当」で統一します。
法定労働時間(1日8時間・週40時間)と所定労働時間の違い
時間外手当が発生するかどうかを決めるのは、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えたかどうかです。会社が独自に決めた「所定労働時間」(例:1日7時間勤務)を超えても、法定労働時間の8時間以内であれば、法律上の時間外手当(割増分)を支払う義務はありません。
ここはよく勘違いされるポイントなので、もう少し噛み砕いて説明します。たとえば所定労働時間が9〜17時(休憩1時間で実働7時間)の会社で、ある日18時まで1時間残って働いたとします。このとき法律上は「法定内残業」といって、1時間分の通常賃金は支払う必要がありますが、25%の割増は不要です。一方、19時まで2時間残った場合、最初の1時間(17時〜18時)は法定内残業、後の1時間(18時〜19時)は「法定外残業」となり、25%割増の時間外手当が必要になります。
「法定内残業」と「法定外残業」で扱いが変わる理由
このように、同じ「残業」でも法定内か法定外かで割増の要否が変わるのは、労働基準法が定めているのは「法定労働時間を超えた分の割増」であり、所定労働時間を超えただけでは法律の規制対象にならないからです。
ただし、就業規則で「所定労働時間を超えた分から25%割増を支給する」と定めている会社も実際にあります。これは法律の最低基準を上回る取り決めなので、もちろん有効です。私の顧問先でも、人材定着を強化するためにあえて法定内残業から25%を支給しているケースがあります。自社の就業規則がどちらの立場かは、必ず一度確認しておきましょう。
時間外手当の計算方法【4ステップ】基本式と進め方
ここからが本題です。時間外手当の計算は、次の4ステップに分解すると驚くほどシンプルになります。逆にこのステップを意識しないまま「月給÷160時間」と機械的にやっていると、基礎賃金の算入ミスや割増率の取り違えが起こりやすくなります。

STEP1:1時間あたりの基礎賃金を計算する(月給÷月平均所定労働時間)
まずは「1時間あたりの基礎賃金(時給換算額)」を出します。月給制の場合の基本式はこうです。
1時間あたりの基礎賃金 = 月給(基礎賃金)÷ 1か月平均所定労働時間
1か月平均所定労働時間は、年間休日数を踏まえて次の式で計算します。
1か月平均所定労働時間 =(365日 − 年間休日日数)× 1日の所定労働時間 ÷ 12か月
たとえば年間休日125日・1日8時間勤務の会社なら、(365 − 125)× 8 ÷ 12 = 160時間 が1か月平均所定労働時間になります。月給28万円の方なら、280,000円 ÷ 160時間 = 1,750円 がその方の「1時間あたりの基礎賃金」です。
STEP2:基礎賃金から除外できる7つの手当をチェック
STEP1の「月給」はそのまま使うわけではなく、労働基準法で除外が認められている手当を差し引いた額を使います。労基法施行規則第21条で除外できる手当は、次の7種類だけです。
① 家族手当 ② 通勤手当 ③ 別居手当 ④ 子女教育手当 ⑤ 住宅手当 ⑥ 臨時に支払われた賃金 ⑦ 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
ここで重要なのは、これは「除けるもの」を限定列挙したルールだということです。逆にいえば、ここに載っていない手当(役職手当、職務手当、皆勤手当、調整手当など)は、すべて基礎賃金に含めて時間単価を計算しなければなりません。
さらに、家族手当や住宅手当でも「実態として一律支給されているもの」は除外できません。たとえば「扶養家族の有無に関係なく、全員に一律1万円を家族手当として払っている」というケースは、名前は家族手当でも実質は基本給の一部とみなされ、基礎賃金に含めて計算する必要があります。
渡辺 俊一
STEP3:時間外労働を区分ごとに集計する(時間外/深夜/休日)
次に、その月に発生した時間外労働を「区分」ごとに集計します。区分とは、次の4つです。
・法定外残業(時間外労働):法定労働時間を超えた部分(25%割増)
・深夜労働:22時〜翌5時の労働(25%割増、時間外と重なるとさらに上乗せ)
・法定休日労働:労基法上の法定休日に働いた時間(35%割増)
・月60時間超の時間外労働:1か月の時間外労働のうち60時間を超えた部分(50%割増)
勤怠管理システムを使っていれば自動集計されますが、エクセル管理の会社では、毎月この4区分でカウントできる集計表を用意しておくと、計算ミスがぐっと減ります。
STEP4:割増率を掛けて合算する
最後に、区分ごとの時間数に1時間あたりの基礎賃金と割増率を掛けて、すべて合算すれば時間外手当の総額が出ます。式にするとこうです。
時間外手当 = Σ(1時間あたりの基礎賃金 × 区分別の時間数 × 区分ごとの割増率)
具体的な計算例は、後の章で月給28万円のAさんを例に4パターン解説します。
時間外手当の割増率一覧【2026年最新】法改正後の計算ポイント
時間外手当の正しい計算には、割増率を正確に把握しておくことが不可欠です。2026年4月時点での労働基準法上の割増率は、次のとおりです。

基本の割増率(時間外25%・深夜25%・法定休日35%・月60時間超50%)
労働基準法第37条で定められた割増率は次のとおりです。
- 時間外労働(法定外残業):25%以上
- 深夜労働(22時〜翌5時):25%以上
- 法定休日労働:35%以上
- 月60時間を超える時間外労働:50%以上
これはあくまで「法律で定められた最低ライン」です。就業規則で「30%」「40%」と上乗せしている会社は、その率を支払う必要があります。
複合的に発生する場合の割増率(時間外+深夜=50%など)
実務でつまずきやすいのが、複数の割増が重なるケースです。たとえば「夜10時を回っても残業が続いた」「土曜日(法定休日)に深夜まで対応した」など、組み合わせが起きるとどう計算すればよいか迷います。

主な組み合わせはこうなります。
- 時間外労働 + 深夜労働 = 50%(25%+25%)
- 法定休日労働 + 深夜労働 = 60%(35%+25%)
- 月60時間超の時間外労働 + 深夜労働 = 75%(50%+25%)
「法定休日労働には『時間外』の概念がない」という点に注意してください。法定休日にいくら長時間働いても、その日は終日「休日労働」扱いとなり、35%割増がベースになります(深夜が重なれば60%)。
中小企業も2023年4月から月60時間超は50%【重要改正】
もうひとつ、絶対に見落としてはいけないのが、2023年4月から中小企業にも適用された「月60時間超の50%割増」です。改正前は中小企業については猶予措置で25%のままでよかったのですが、いまは大企業と同じく月60時間を超えた時間外労働には50%割増が必要です。
たとえば月給28万円・基礎賃金1,750円の方が、月70時間の時間外労働をしたケースを考えてみましょう。改正前と改正後で、こう変わります。
- 改正前:1,750円 × 70時間 × 1.25 = 153,125円
- 改正後:1,750円 × 60時間 × 1.25 + 1,750円 × 10時間 × 1.5 = 131,250円 + 26,250円 = 157,500円
1人あたりで見ると4,000円程度の差ですが、長時間残業者が10名いれば月4万円超のコスト増、年間50万円規模になります。計算式そのものを切り替えていない会社は、この差額分が未払い残業代として蓄積している可能性があります。
時間外手当の計算例|月給28万円のAさんで具体シミュレーション
ここからは、月給28万円・1か月平均所定労働時間160時間(基礎賃金1,750円/時)のAさんを例に、4つのケースで具体的な計算を見ていきます。実務でよく出会うパターンを揃えました。
ケース1:通常の時間外労働20時間だけのシンプルなケース
もっともシンプルなパターンです。深夜も休日もなく、平日の19時〜21時頃までの残業が月20時間積み上がったAさんの場合。
1,750円 × 1.25 × 20時間 = 43,750円
ケース2:時間外労働+深夜労働が重なった場合
同じ20時間の残業でも、そのうち2時間が22時を超えていたとしたら?
- 通常の時間外(18時間):1,750円 × 1.25 × 18時間 = 39,375円
- 時間外+深夜(2時間):1,750円 × 1.5 × 2時間 = 5,250円
- 合計:44,625円
たった2時間深夜にかかっただけで900円ほど追加になります。1人なら少額に見えますが、慢性的に深夜残業が出る部署では年間でかなりの差が出ます。
ケース3:法定休日労働と深夜労働が重なったケース
日曜日(就業規則で法定休日と特定)に出社して、夜中の0時まで8時間働いたAさんのケースです。22時〜0時までの2時間が深夜にかかります。
- 休日労働(6時間):1,750円 × 1.35 × 6時間 = 14,175円
- 休日+深夜(2時間):1,750円 × 1.6 × 2時間 = 5,600円
- 合計:19,775円
ケース4:月60時間を超える長時間残業のケース
繁忙期で月の時間外労働が70時間に達したAさんのケースです。60時間までと60時間超を分けて計算します。
- 60時間まで:1,750円 × 1.25 × 60時間 = 131,250円
- 60時間超(10時間):1,750円 × 1.5 × 10時間 = 26,250円
- 合計:157,500円
渡辺 俊一
雇用形態別・時間外手当の計算方法(フレックス/変形/裁量/管理職)
ここまでは「通常の月給制」を想定した計算でしたが、実際の現場では雇用形態や勤務制度によって、時間外手当の考え方が少しずつ変わります。代表的な4パターンを整理します。

フレックスタイム制での時間外手当の計算
フレックスタイム制では、清算期間(最大3か月)の総労働時間が「清算期間の法定労働時間の総枠」を超えた分が時間外労働となります。1日や1週間ごとに集計するのではなく、清算期間全体で見るのがポイントです。
たとえば清算期間が1か月(暦日数30日)の場合、法定労働時間の総枠は 40時間 × 30日 ÷ 7 = 約171.4時間。実労働時間が190時間なら、約18.6時間が時間外労働として25%割増の対象になります。
変形労働時間制での計算と注意点
1か月単位や1年単位の変形労働時間制では、あらかじめ決めた所定労働時間(特定日の8時間超勤務など)はOKですが、その所定労働時間を超えた分は時間外労働になります。さらに、特定日に所定が10時間と決められている日に12時間働けば、超過2時間が時間外。1週単位・1か月単位・期間トータルの3段階でチェックする手間が発生するため、必ず勤怠管理システムでの自動集計をおすすめします。
裁量労働制・みなし残業との関係
裁量労働制(専門業務型・企画業務型)では、実労働時間にかかわらず「労使協定で定めたみなし時間」だけ働いたとみなされる制度です。みなし時間が9時間であれば毎日1時間の時間外労働分の割増賃金が発生します。ただし、深夜労働と休日労働は実態に応じて別途計算が必要です。「裁量労働だから残業代はゼロ」という運用は完全な誤りなので注意してください。
管理職に時間外手当は必要?「名ばかり管理監督者」の落とし穴
労働基準法上の「管理監督者」(労基法41条)に該当する管理職には、時間外手当・休日手当の支払い義務はありません。ただし、これは「課長」「部長」といった肩書きで決まるものではなく、①経営者と一体的な立場で経営判断に関与する職務内容と権限、②労働時間の裁量、③その地位にふさわしい待遇(一般従業員の1.5倍程度の年収が目安)、という3要件をすべて満たす必要があります。
有名なマクドナルド事件(東京地裁2008年)では、店長職が管理監督者と認められず、約750万円の未払い残業代等の支払いが命じられました。「肩書きだけで残業代を払わない」運用は非常にリスクが高いと覚えておいてください。なお、管理監督者であっても深夜労働の25%割増は支払う必要があります。
時間外手当の端数処理は1分単位が原則【法律で決まった例外ルール】
「時間外手当 計算方法 端数処理」というキーワードで検索される方も多いので、ここはしっかり押さえましょう。
1分単位計算の原則と「30分丸め」が許される条件
労働時間の集計は「1分単位」で行うのが原則です。「15分未満切り捨て」のような社内ルールは違法となるリスクがあります。例外的に、1か月の時間外労働の合計時間について、30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げる処理だけは、行政通達(昭和63年基発150号)で認められています。
つまり「1日ごと・1回ごとに15分単位で切り捨てる」のはNG、「月の合計時間を30分単位で四捨五入する」のはOK、というのが端数処理の正しい考え方です。
月単位の合算で50銭未満を切り捨てるルール
金額の端数についても、同じ通達で次の処理が認められています。
- 1時間あたりの賃金額・割増賃金額に1円未満の端数が出た場合、50銭未満は切り捨て、50銭以上は1円に切り上げる
- 1か月の割増賃金総額に1円未満の端数が出た場合も同様に処理する
これは社内ルールではなく、労働基準法上の「便宜的な処理」として認められている方法であり、これを下回る端数処理(例:すべて切り捨て)はできません。
違反すると未払い扱いになる実務上のNG例
よくあるNG例としては、「タイムカードの打刻を15分単位で切り捨てている」「定時前の朝礼や定時後の片付け時間を労働時間にカウントしていない」「分単位の集計をせず、本人申告ベースで処理している」などがあります。これらは労基署の調査で必ず指摘されるポイントであり、未払い残業代として遡って支払いを命じられるケースが多いので、自社の運用は今一度チェックしてください。
固定残業代と時間外手当の関係|超過分は必ず追加で支給が必要
「うちは固定残業代を払っているから、追加の時間外手当は不要」という理解は、半分正しく、半分大きな誤解を含んでいます。
固定残業代制度が有効になる4つの法的要件
固定残業代を有効に運用するためには、次の4つの要件をすべて満たす必要があります。
- 基本給と固定残業代部分が明確に区分されていること(例:「月給30万円(基本給25万円、固定残業代5万円・月30時間分を含む)」)
- 固定残業代が何時間分の時間外労働に対応するかが明示されていること
- 固定残業時間を超えた場合に追加で割増賃金を支払うことが制度上担保されていること
- 労働契約書・就業規則に明記されていること
「営業手当」「業務手当」のような曖昧な名目で固定残業代を支払っている会社は、要件未充足で制度自体が無効と判断されるリスクがあります。無効になると、固定残業代として払っていた金額が「基本給の一部」とみなされ、過去にさかのぼって割増賃金を再計算することになり、巨額の未払いが発生しかねません。
固定時間を超えた場合の追加割増賃金の計算方法
固定残業代を「月30時間分」で設計していて、ある月に40時間の時間外労働が発生した場合、超過した10時間分は別途、割増賃金として追加支払いが必要です。
追加分の計算は、固定残業代を含まない「基礎賃金」をベースに行います。「固定残業代を払っているから今月はもう払わなくていい」という思い込みが、未払い残業代を蓄積させる最大の原因です。
深夜割増は固定残業代に含められないので別途計算
固定残業代に含めることができるのは、時間外労働分の25%割増賃金(深夜の時間外なら50%のうち25%分)と休日労働分の35%割増賃金に限られます。深夜労働の25%割増は別途支給が原則です。深夜にかかる残業が多い職場で、固定残業代だけで対応していると、これも未払いの温床になります。
時間外手当の計算で陥りやすい実務ミス7選【顧問先500社の事例から】
ここまでで計算の理屈は理解できたかと思います。では実際に、私が顧問先で見てきた中で「これは多いな」と感じる実務ミスを7つ挙げます。1つでも当てはまる項目があれば、すぐに見直しが必要です。

- 役職手当・職務手当を基礎賃金に入れていない:労基法施行規則の7つの除外手当に該当しないものは、すべて算入が必要です。
- 法定休日と法定外休日の区別が曖昧:「日曜を法定休日」と就業規則で特定していないと、土曜出勤を35%で計算してしまうリスクがあります。
- 振替休日と代休を混同している:事前振替なら割増不要、事後の代休なら35%割増が必要、という違いを正しく理解していない会社が多くいます。
- 月60時間超の50%割増に対応できていない:2023年4月以降、中小企業も対象です。給与システムの設定確認は必須です。
- 1分単位の労働時間集計ができていない:日次15分単位の切り捨てはNG。月次合算で30分四捨五入のみOK、と覚えてください。
- 36協定の上限を見落としている:原則「月45時間・年360時間」、特別条項でも「年720時間・複数月平均80時間以内・単月100時間未満」を超えると刑事罰対象です。
- 「課長だから」と残業代を払っていない:管理監督者の3要件(職務内容・労働時間裁量・待遇)を満たしていない場合、すべて未払い残業代になります。
渡辺 俊一
時間外手当を正しく払わないとどうなる?未払い残業代の高額リスク
「ちょっとくらい計算がズレていても、本人が言ってこなければ大丈夫」と思っている経営者の方、本当に多いです。しかし、未払い残業代は1人の従業員が請求してきた瞬間に、過去にさかのぼって全社的なリスクに変わります。
過去2〜3年分の遡及請求+付加金(同額)
未払い残業代の請求権は、現在は3年(当面の措置、将来的には5年へ延長予定)です。労働者が裁判で請求した場合、未払い元本に加えて同額の「付加金」を裁判所が命じることがあるため、実質的に未払い額の最大2倍の支払い命令を受ける可能性があります。さらに年14.6%の遅延損害金も加算されます。
時効は当面3年→将来5年に延長予定の影響
2020年の民法改正に合わせて、未払い賃金請求権の消滅時効は2年から5年に延長されました。ただし当面は経過措置で3年とされています。近い将来5年に完全移行する予定で、その時には請求できる範囲が今より大幅に広がります。今のうちから正しい計算と支払いの仕組みを整えておくことが、リスク管理の観点から極めて重要です。
賃上げで残業単価も上がる=未払い額もどんどん膨らむ
もうひとつ意識したいのが、近年の急激な賃上げトレンドです。基本給が上がれば、当然「1時間あたりの基礎賃金」も上がります。つまり、過去の未払い残業代を仮にこれから精算しようとしたとき、賃上げ後の単価で再計算されるケースもあり、当時想定していたより高額になる可能性があります。「いつかちゃんとしよう」と先送りしている会社ほど、損失額が膨らむ構造です。
時間外手当の計算を効率化する3つの方法(自動化/専門家/ツール)
ここまで読んでいただいた通り、時間外手当の計算は実務的にかなり負荷の高い作業です。最後に、現場の負担を減らしつつ正確性を担保する3つの方法をご紹介します。
勤怠管理+給与計算システムの連携で自動化する
もっとも効果的なのは、クラウド型の勤怠管理システムと給与計算システムを連携させる方法です。打刻データから時間外・深夜・休日・60時間超を自動で区分し、割増率を掛けて月次集計まで一気通貫で処理できます。法改正対応もシステム側でアップデートされるため、計算ミスのリスクが大幅に下がります。
顧問社労士に毎月のチェックを依頼する
システムを導入していても、設定ミスや特殊ケースの判断は人間が必要です。顧問社労士による毎月の給与計算チェックを入れておくと、固定残業代や管理監督者の扱い、新しい法改正への対応漏れを早期に発見できます。「自社で計算→社労士が監査」という体制が、もっとも未払いリスクを下げる構成です。
無料の残業代計算ツール・1時間の賃金計算ツールでセルフチェック
個別の従業員について試算したい場合は、CASIO keisanなどが提供する「割増賃金計算ツール」「残業代計算ツール 月給」「1時間の賃金計算ツール」といった無料のWebツールでセルフチェックも可能です。本格運用には不向きですが、特定のケースでの確認や、従業員説明用の試算には便利です。厚生労働省の「時間外労働 計算 厚生労働省」関連ページでも、計算の考え方は公式に解説されています。
時間外手当の計算方法に関するよくある質問(FAQ)
Q. 残業が1分でも発生したら、時間外手当は必要ですか?
渡辺 俊一
Q. 時間外手当と残業手当は何が違うのですか?
渡辺 俊一
Q. 1時間あたりの基礎賃金はどう計算すればよいですか?
渡辺 俊一
Q. 固定残業代を払っていれば、追加の時間外手当はゼロでよいですか?
渡辺 俊一
Q. 管理職には時間外手当を払わなくてもいいと聞きましたが本当ですか?
渡辺 俊一
まとめ|時間外手当の正しい計算で労務トラブルを未然に防ごう
時間外手当の計算方法は、「1時間あたりの基礎賃金 × 区分別の時間数 × 割増率」を合算するという、とてもシンプルな構造です。しかしその裏側には、除外できる手当の限定列挙、複合割増の組み合わせ、月60時間超の50%適用、固定残業代の有効要件、管理監督者の判定など、実務で間違えやすいポイントが多数あります。
本記事の4ステップと7つの実務ミス、ぜひ自社の給与計算と照らし合わせて点検してみてください。少しでも「ここ、怪しいかも」という箇所があれば、未払い残業代として将来跳ね返ってくる前に対処することが大切です。
HR BrEdge社会保険労務士法人では、顧問先500社超・給与計算月1万人の実績をもとに、時間外手当の計算ロジック点検から固定残業代の制度設計、勤怠管理システムの導入支援まで、ワンストップで対応しています。「うちの計算、本当に大丈夫だろうか?」と感じられた経営者・総務担当者の方、お気軽にご相談ください。
この記事の執筆者
![]() 渡辺 俊一 (わたなべ としかず) |
HR BrEdge社会保険労務士法人 代表 1977年兵庫県神戸市生まれ。関西学院大学法学部法律学科卒業後、日本マクドナルド株式会社に入社。2005年社会保険労務士試験に合格し、2007年に渡辺社会保険労務士事務所を開設。2016年法人化し、2025年5月に「HR BrEdge社会保険労務士法人」へ社名変更。 顧問先500社超・実績970社以上を誇り、「会社の財産は人・人・人である」を信念に、従業員・お客様・社会の「三方良し」の経営支援を実践。給与計算・社会保険手続き・就業規則・助成金申請から、IPO・M&Aに向けた労務監査まで幅広く対応。 著書『頂点をめざす!~経営者のパートナーとして歩む社労士の物語~』はAmazon「社会保険労務士の資格・検定」部門で1位を獲得。
【所属】全国社会保険労務士連合会/大阪府社会保険労務士会/一般社団法人EO Osaka |




