こんにちは。HR BrEdge社会保険労務士法人代表、特定社会保険労務士の渡辺俊一(わたなべとしかず)です。
「海外赴任が決まった社員の年末調整、出国前に何をすればいい?」「赴任は1年か2年か、ケースで何が違うのか分からない」「住宅ローン控除はどうなる?」——大阪・東京・福岡・名古屋を中心に、HR BrEdgeの顧問先500社の人事担当者からも、こうした海外赴任時の税務対応に関するご相談が年々増えています。グローバル展開する中小企業が確実に増えており、初めて海外赴任者を出す会社にとって「出国時年末調整」は一気にハードルが上がる業務です。
こんなお悩みを感じていませんか?
- 「初めての海外赴任者で、出国時年末調整の手順が分からない」(人事担当者)
- 「給与計算システムが対応できていない、システム制約で困っている」(給与計算担当者)
- 「海外でテレワーク・短期出張・退職して出国など、ケースによって扱いが違うはず」(人事担当者)
- 「住宅ローン控除は出国後も使えるのか?」(赴任予定の本人)
- 「出国時年末調整を実施し忘れた、どうリカバーすれば?」(給与計算担当者)
この記事では、出国時年末調整の基本ルール、対象者・要件・タイミング、5ステップ実務フロー、6ケース別対応マトリックス、控除の取扱い、住宅ローン控除と海外赴任の関係、出国後の給与・賞与の源泉徴収、忘れた場合のリカバリー方法まで、人事担当者・経営者・赴任予定者の全方位視点で網羅的に解説します。

出国時年末調整とは?居住者・非居住者の判定と要件
まず、出国時年末調整の前提となる「居住者・非居住者」の判定ルールを押さえます。これを理解しないと、後の判断ですべて迷うことになります。

1年以上の予定で出国=非居住者
所得税法第2条と国税庁No.2517によれば、1年以上の予定で海外赴任する社員は、出国時から「非居住者」として扱われます。これにより、出国後の海外勤務に対する給与は原則として日本の所得税の課税対象外となります(一般社員の場合)。判定基準は「実際の滞在期間」ではなく「出国時の予定期間」です。
1年未満の予定=居住者(通常の12月年末調整)
1年未満の予定で出張・短期赴任する社員は、引き続き「居住者」として扱われ、出国時年末調整は不要です。通常通り12月に年末調整を実施します。海外勤務中の給与も日本の所得税の課税対象です。
出国時年末調整は「年の途中で行う特殊な年末調整」
1年以上の予定で出国する社員に対して、出国日までに年末調整を実施することを「出国時年末調整」と呼びます。通常の年末調整が12月に行われるのに対し、出国時年末調整は年の途中に行う「特殊な年末調整」です。国税庁の正式な制度であり、見落とすと税務リスクが発生します。
出国時年末調整の対象者・要件・実施タイミング
出国時年末調整は誰が対象で、いつまでに実施すべきか。要件を整理します。
対象者の3要件
次の3つの要件をすべて満たす社員が対象です。
- 1年以上の任期で海外赴任することが決定している(出国時の予定で判定)
- その年の給与等の支給額が2,000万円以下(通常の年末調整と同じ要件)
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を会社に提出している
役員も対象になりますが、出国後の源泉徴収扱いが一般社員と異なります(後述のh2-7参照)。
実施タイミング:出国日まで
出国時年末調整は「出国日までに実施」する必要があります。実務上は、出国前の最後の給与計算で年末調整計算を行い、12月に行う通常の年末調整と同じ計算を「その年1月1日〜出国日」までの給与で実施します。
源泉徴収票の交付タイミング(出国後1か月以内)
出国時年末調整実施後の源泉徴収票は、退職時と同様に「出国後1か月以内」に本人へ交付するのが原則です。本人が必要に応じて確定申告に使うため、海外赴任先へ送付できる体制を整えておきます。
出国時年末調整のやり方|5ステップ実務フロー
具体的な実務手順を、HR BrEdgeが顧問先で実践している5ステップで整理します。

ステップ1:出国予定の把握・社内通知
赴任内示の段階で、人事・経理・本人の三者で出国予定日と赴任形式(出向/転勤/長期出張)、赴任期間を明確化します。1年以上の予定であることを書面(人事異動辞令等)で確認すれば、出国時年末調整の必要性が確定します。
ステップ2:扶養控除等異動申告書・保険料控除申告書の回収
本人から「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」「給与所得者の保険料控除申告書」「給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書」を出国前に回収します。配偶者・扶養親族の見積所得は出国時点での見込みベースで記入します(その年の年末ではなく出国時点)。
ステップ3:1月1日〜出国日までの給与で年末調整計算
給与計算ソフトで、その年1月1日から出国日までに支給された給与・賞与の合計を年税額計算します。控除は1月1日から出国日までに支払った社会保険料・生命保険料等に限ります。基礎控除(48万円・合計所得2,500万円以下)も適用されます。
ステップ4:差額還付(または追加徴収)と源泉徴収票発行
計算結果と源泉徴収済み所得税の差額を、最終給与で還付(または追加徴収)します。同時に源泉徴収票を発行します。源泉徴収票には「中途就職者」「死亡退職」と同じ区分で出国の旨を記載し、摘要欄に「年の中途で出国」等の記載を入れます。
ステップ5:納税管理人選任の案内
出国後も日本国内で不動産収入があったり、住宅ローン控除を継続する場合は、「納税管理人」の選任が必要です。出国前に本人に案内し、税務署への「納税管理人の届出書」提出をサポートします。納税管理人は通常、本人の親族・税理士・社労士などが務めます。
渡辺 俊一
6ケース別対応マトリックス|赴任パターンごとの判断
「うちの社員のケースはどれに当てはまるか」を6パターンで整理します。実務でよくある全ケースをカバーします。

①通常赴任(1年以上):出国時年末調整必要
もっとも標準的なケース。出国時に年末調整を実施し、出国後の海外勤務給与は源泉徴収対象外(一般社員の場合)。
②短期出張(1年未満):通常の12月年末調整
1年未満の予定なら居住者のままなので、通常通り12月に年末調整を実施。海外勤務中の給与も日本の所得税の課税対象です。
③退職して出国:退職時年末調整+出国時調整不要
会社を退職してから海外へ移住するケース。退職時に通常の年末調整を実施し、その後の出国時年末調整は不要です。退職金がある場合は退職所得申告書も同時処理。
④海外でテレワーク(在籍中・居住者扱い):通常年末調整
海外でテレワークしながら日本企業に在籍する社員は、1年未満の予定なら居住者、1年以上の予定なら非居住者となります。住民票を国内に置いたまま物理的に海外にいる時点で「予定期間」での判定が重要です。
⑤年の途中で帰国:帰国後の通常年末調整
海外赴任から年の途中で帰国した場合、帰国日以降は居住者となります。12月に通常の年末調整を実施しますが、対象は帰国日から年末までの給与・控除に限ります。出国前に出国時年末調整が完了している必要があります。
⑥役員の海外赴任:海外勤務分も20.42%源泉徴収継続
役員の場合、所得税法上「内国法人の役員報酬」として扱われるため、海外勤務中の給与も20.42%の源泉徴収が必要です。一般社員の取り扱いと大きく異なるため要注意です。
控除の取扱い|社会保険料・生命保険料・扶養控除のルール
出国時年末調整での控除は、通常の年末調整と判定基準が異なります。間違えると税額計算がずれます。
物的控除|社会保険料・生命保険料・地震保険料
物的控除(保険料控除)の対象は、「その年1月1日から出国日までに支払った保険料」に限られます。出国後に支払う予定の保険料は控除対象外です。10月や11月に出国する社員の場合、年末の社会保険料・生命保険料はその年の年末調整では使えない点に注意してください。
人的控除|扶養・配偶者控除
扶養控除・配偶者控除等の人的控除は、「出国時の状況」で判定します。配偶者・扶養親族の所得は、その年1月1日から12月31日までの見積もり所得を出国時点で記入します。同行家族・帯同家族も「扶養」に該当すれば対象です。
基礎控除|合計所得2,500万円以下なら適用
基礎控除は通常の年末調整と同じく、本人の合計所得金額が2,500万円以下であれば段階的に適用されます(48万円〜0円)。出国時年末調整でも基礎控除申告書の提出が必要です。
住宅ローン控除と海外赴任|単身赴任・家族同行で違う
海外赴任予定者から最も多い質問が「住宅ローン控除はどうなる?」です。単身赴任・家族同行で扱いが異なります。
単身赴任:家族が引き続き居住していれば控除継続可
本人が単身赴任で出国するが、配偶者・扶養親族が引き続き同じ住宅に居住している場合、住宅ローン控除の継続が認められる可能性があります(再適用の特例)。出国前に税務署に「転任の命令等による住宅借入金等特別控除の適用を受ける旨の届出書」を提出することで、海外赴任中も控除を継続できます。
家族同行(住宅が空き家):原則として控除停止
配偶者・扶養親族と一緒に海外赴任し、住宅が空き家になる場合は、住宅ローン控除は原則として一時停止します。理由は、住宅ローン控除の要件である「自己居住要件」を満たさなくなるためです。
帰国後の再適用|「再び居住の用に供した場合」の特例届出
帰国後に再び自己居住すれば、残りの控除期間について控除を再開できます。これも事前に税務署への「再び居住の用に供した場合の住宅借入金等特別控除の再適用に関する届出書」が必要です。
渡辺 俊一
出国後の給与・賞与の源泉徴収|一般社員vs役員
出国後に支払う給与・賞与の取扱いは、一般社員と役員で大きく異なります。賞与の按分計算もポイントです。
一般社員:海外勤務分は源泉不要・国内勤務分は20.42%
一般社員の場合、海外勤務に対する給与(国外源泉所得)は日本の所得税の課税対象外です。源泉徴収も不要です。ただし、年の途中で一時帰国して日本で勤務した期間の給与は「国内源泉所得」となり、20.42%の源泉徴収が必要になります。
役員:海外勤務分も20.42%源泉徴収
役員(取締役・監査役等)の場合は、内国法人の役員報酬は国内源泉所得として扱われるため、海外勤務中も日本で支払う役員報酬は20.42%の源泉徴収対象です。一般社員と大きく異なるため、役員の海外赴任は税務処理が複雑化します。
国内勤務日数の按分計算|賞与のケース
出国後に支給される賞与(計算期間が出国前から続いている場合)は、計算期間中の国内勤務日数と海外勤務日数で按分し、国内勤務分のみ源泉徴収対象とします。計算例:
- 賞与50万円、計算期間6か月(180日)
- うち国内勤務90日、海外勤務90日
- 国内源泉所得:50万円 × 90/180 = 25万円
- 源泉徴収:25万円 × 20.42% = 51,050円
出国時年末調整を忘れた・できない場合の対応
「うっかり実施し忘れた」「給与計算システムが対応していない」場合の救済方法を整理します。

ステップ1:本人に納税管理人選任を案内
出国時年末調整ができなかった場合、本人が出国後に日本での税務処理を進めるため、納税管理人を選任します。家族・税理士・社労士などが務めます。税務署に「納税管理人の届出書」を提出します。
ステップ2:本人が確定申告で精算(5年遡及可)
本人(または納税管理人)が、出国年の翌年2月16日〜3月15日の確定申告期間に確定申告で年末調整相当の精算を行います。出国前に支払った保険料・控除を反映し、源泉徴収済み所得税との差額を還付請求できます。還付申告は5年遡及できるため、過去の出国時年末調整漏れも救済可能です。
システム制約で実施できない会社の代替運用ルール
給与計算システムが出国時年末調整に対応していない会社では、次のような代替運用が考えられます。
- 出国前の最後の給与計算は通常通り処理(年末調整なし)
- 本人へ「確定申告で精算してください」と書面で案内
- 必要書類(源泉徴収票・保険料控除証明書等)を本人に渡す
- 納税管理人選任を支援
ただし、本来は会社で出国時年末調整を実施するのが原則です。代替運用は本人の手続き負担を増やすため、給与計算ソフトの更新・社労士アウトソースを検討する方が長期的には合理的です。
出国時年末調整に関するよくある質問(FAQ)
Q1. 出国時年末調整は必ず必要ですか?
渡辺 俊一
Q2. いつまでに実施すればいいですか?
渡辺 俊一
Q3. 実施し忘れた場合はどうしたらいいですか?
渡辺 俊一
Q4. 出国後に支給される賞与の取扱いは?
渡辺 俊一
Q5. 海外でテレワーク勤務する場合はどう判定しますか?
渡辺 俊一
Q6. 役員と一般社員で扱いはどう違いますか?
渡辺 俊一
Q7. 住宅ローン控除はどうなりますか?
渡辺 俊一
Q8. 家族を扶養に入れたまま赴任できますか?
渡辺 俊一
Q9. 源泉徴収票はいつもらえますか?
渡辺 俊一
Q10. 確定申告は本人が日本でできますか?
渡辺 俊一
Q11. 納税管理人とは?誰に依頼できますか?
渡辺 俊一
Q12. 一時帰国時の給与の取扱いは?
渡辺 俊一
Q13. 退職して出国する場合はどうなりますか?
渡辺 俊一
Q14. 前職が海外勤務だった転職者の年末調整は?
渡辺 俊一
Q15. 住民税はどうなりますか?
渡辺 俊一
まとめ|出国時年末調整は「6ケース別マトリックス」で迷わない
最後に重要なポイントを3つ振り返ります。
- 居住者・非居住者の判定は「出国時の予定」で決まる。1年以上の予定で出国=非居住者=出国時年末調整が必要、1年未満=居住者=通常の12月年末調整、と覚えれば迷いません。
- 6ケース別マトリックスを把握する。通常赴任/短期出張/退職して出国/海外テレワーク/途中帰国/役員赴任の6パターンで判断軸が違います。役員は海外勤務分も20.42%源泉徴収継続という特殊扱いを忘れずに。
- 住宅ローン控除は単身赴任なら継続可、忘れた場合は確定申告で5年遡及救済。出国前の届出書提出と、納税管理人の選任で本人の手続きをサポートしましょう。
HR BrEdge社会保険労務士法人では、大阪・東京・福岡・名古屋を中心に全国47都道府県対応で、出国時年末調整の運用整備・給与計算アウトソース・海外勤務規程の作成・税理士との連携支援まで、人事担当者の実務を一気通貫でサポートしています。「初めての海外赴任者発生で運用に不安」「役員の海外赴任で税務処理が複雑」というご相談を多くいただいています。お気軽にお問い合わせください。
渡辺 俊一
この記事の執筆者
![]() 渡辺 俊一 (わたなべ としかず) |
HR BrEdge社会保険労務士法人 代表 1977年兵庫県神戸市生まれ。関西学院大学法学部法律学科卒業後、日本マクドナルド株式会社に入社。2005年社会保険労務士試験に合格し、2007年に渡辺社会保険労務士事務所を開設。2016年法人化し、2025年5月に「HR BrEdge社会保険労務士法人」へ社名変更。 顧問先500社超・実績970社以上を誇り、「会社の財産は人・人・人である」を信念に、従業員・お客様・社会の「三方良し」の経営支援を実践。給与計算・社会保険手続き・就業規則・助成金申請から、IPO・M&Aに向けた労務監査まで幅広く対応。 著書『頂点をめざす!~経営者のパートナーとして歩む社労士の物語~』はAmazon「社会保険労務士の資格・検定」部門で1位を獲得。 【所属】全国社会保険労務士連合会/大阪府社会保険労務士会/一般社団法人EO Osaka |





